夕方に雨があがってむんむんする夜。
そんな夜は「蛍、探しに行こうよ。」とこどもたちが言う。
ホタルを探しに散歩に出かけた。
こどもたちが小さな懐中電灯で足元を照らす。
水の入った田んぼに、ピンク色のおぼろげなお月さまがゆらゆらと映る。
空を見上げると、お月さまは雲の隙間から現れたり、隠れたり。
すぐそばからも向こうの山の中からも、カエルの鳴き声がする。
腹の底から鳴いているような声、喉元で鳴いている声…。カエルの鳴き声にも色々ある。
小さな橋の下を流れる水の音、歩く自分の足音が聞こえる。
なぜこんなにもいろんな音たちが耳元に聞こえてくるのかなと思う。
夜はそんな時間なのかもしれない。
「あ、いたいた!」
雨でぬれた竹の葉の先に、ちかり、ちかり、と光る小さな灯り。
両手でその灯りを包んだ息子がそうっとそうっと、手の中をのぞき込む。
手のひらの上で黄緑色のひかりが何度か行ったり来たりして、指の先からふっと飛んでいく。
あたりをひとまわりして今度は息子のおなかにとまった。
ちかり。
ちかり。
ちかり。
「蛍は一週間しか生きられないんやって。」
そう言った息子のおなかから、ふわり。
顔をあげるとすぐそばの栗の木や、あっちにもこっちにも、山の中にぼんやりとしたあかりが灯っている。
「もう帰ろうか。」
「蛍さんおやすみー。」
そう言いながら、もと来た道を歩く。
玄関の明かりのまぶしさに目を細めた時、ふと気がついた。
こどもたちは「こんな日」に蛍が出ると知っている。
その感覚をいつのまにか身につけていたのだ。