醤油搾り旅最終日の朝、家で留守番中の奥さんから、僕の携帯にメッセージが届いた。
「水が止まってる」
止まっているのは、母屋横にある、オーバーフローした水が流れ込む水槽のホースから出る水だ。そのホースの元には山水を貯める水瓶がある。蛇口からまだ水は出る。しかし、いま水瓶にどのくらい水が残っているのか分からないし、止まっている原因も不明。水瓶は水圧をあげるために少し高いところにあり、ちょっとした崖を登らないといけないので、行き慣れてない奥さんが確認に行くのは難しい。僕は今日中に家に帰るから、それまでなるべく節水をしてと返信した。
帰宅するのは夜になるから、チェックするのは翌日だ。いつ水瓶の水を使い切るか分からないので、今晩お風呂は無し、朝の洗濯もスキップ。いつもは水を流しっぱなしの食器洗いもタライに溜め水をしながらとなる。水が止まると、暮らしも止まるんだな。当たり前のことを再確認する。
家までの帰り道、車を運転しながら、頭の中で原因を考える。
確かにここ数日は雨が少なくて、沢からの水量が少なくなっていた。水圧が足りず水が止まったのだろうか?落ち葉が溜まって取水口が詰まってしまったか?それとも全く別の理由だろうか。
原因が特定できなければ、解決まで水が使えない状態となる。水が無ければ生活できない。きっと大丈夫だろう、いやもしかしたら、もうここには住めなくなるのかも。と楽観と心配が頭を行ったり来たりする。
翌朝。数日間留守だったために、やらねばいけないこともいくつかあったが、まずは水を取り戻すのが最優先事項だ。
オーバーフロー用のホースからは、やっぱり水が出ていない。普段絶え間なく聞こえる水音が無いと、不安な気持ちになる。崖を登り、水瓶の屋根をどかして見ると、中にはまだ半分くらい水があった。
山に入るいつもの服に着替えて、ホース沿いに歩き出す。
ホースは、隣を流れる沢に沿って上流の取水口まで繋がっている。何度も行き来しているのでなんとなく道ができているが、獣道に毛の生えた程度で、考え事をしていると道を外れてしまうこともある。枝をかき分けながら、滑ったり転んだりしないよう、注意して歩く。
原因は、途中のホースが外れているだけだった。水が流れる振動で外れてしまったのかもしれない。ホースをしっかり繋げると、水の勢いは小さかったが、いつも通り、水瓶に水が注がれるようになった。水瓶がいっぱいになると、溢れた水が下の水槽も満たしていった。
さあ陽のあるうちに、と急いで洗濯をはじめ、溜まっていた食器などを洗った。
今回は僕の不在の時に起こったので不安が大きかったが、大雨の後などは取水口に落ち葉が詰まったりして水が止まることはよくある。その度に山に入るが、実際に行ってみないと原因が分からない。今回も大したことないだろうと思いつつ、例えば崖が崩れて沢が埋まってしまったなど自分で解決できないアクシデントが起こったらもうお手上げだろうな、と心のどこかで覚悟してる。