住人のストーリーを一人一人伝える。
土佐町の歴史や暮らす人の物語を記録し、伝え残すメディアを独自の視点で運営するカメラマン。
「このままではカメラマンとして死ぬと思うほど、撮ることへのモチベーションが 下がっていました。どうせなら、撮りたい物がある場所へ行ってみようと、縁があった土佐町に来ました」と話す石川拓也さん。現在、「とさちょうものがたり」編集長としてWEBマガジンや フリーペーパーで土佐町の情報を発信している。
千葉県出身の石川さんは、カメラマンとしてニューヨークで活動後、2002(平成14)年に帰国し、東京で数々の有名人などを撮影した経歴を持つ。しかし、芸能界という華やかな業界で働くうちに、本当に撮りたい物とのギャップを感じるように。今後を模 索する中で訪れた高知が 石川さんの心を動かした。
「東京とは真逆で、高知は自然と近く、撮りたい物の匂いがしました」。
土佐町役場が広報担当者を募集 していると聞き、すぐに手を挙げて移り住んだ。16 (同28)年から3年間、地域おこし協力隊を務め、今は嘱託職員として働く。
最初に取り組んだのは、 町のPR用のポストカードと動画制作だった。その撮影をしながら町内を巡る間に、撮ることへの自信は復活していたと話す。「自然の摂理の中で暮らす人の姿や、先祖の代から続いてきた地域文化が目の前にあって。それは撮りたいと思っていた“本質的な物”でした」と石川さん。
「とさちょうものがたり」 は、石川さんが考える“本質的な物”に焦点を当てる。自治体の広報メディアだが、観光情報などは載せていない。記事は、人のインタビューや郷土料理などの紹介から、町の暮らしの根本に触れられるような内容で、その読者は全国に広がる。「人がいるから町ができます。土地の歴史と、住人のストーリーを一人一人伝えることが町を伝えることだ考えているので、それを記録して伝えていきたい」
現在、編集スタッフの鳥山百合子さんと2人で活動する。広報メディアの運営の他に、障がいのある人と作るシルクプリントT シャツや、カレンダーの製作事業なども行う。コロナ禍で、なじみの事業者が苦労していると聞き、その商品をWEB上で販売する取り組みも始めた。出会った人との関係を大切にしているというように、事業のアイデアは、町の人と接する中で生まれている。
幅広く活動する石川さんだが、写真はやはり本人の中心。高知に来て揺るがないものが持てたそうだ。撮影では、日常を少し違った視点で切り取 ろうと意識を向ける。
「写真を撮ることは人を肯定する作業だと考えています。写真に写ることでポジティブになってもらいたいし、そんな写真を撮り続けたいです」
掲載された日から早速、土佐町の方をはじめ、多くの人から「記事、読んだよ〜」とお声がけいただきました。「K+」や高知新聞をはじめとする紙媒体の強さを感じます。
インタビューを通し、とさちょうものがたりの土台となる思いが届きますように。