ある野菜が旬の季節になると、ご近所さんからお裾分けをいただく。くださる方は「笹でもたくさん採れちゅうろうけんど、ごめんねえ」と申し訳なさそうに野菜の入った袋を渡してくれる。でもうちは食べる口(くち)が多いので、本当にありがたい限りだ。
柿に大根、サツマイモ、チャーテにパプリカなどなど。山盛りになった野菜用コンテナを眺めながら、うちも「広くやるようになったなあ」とあの日の会話を思い出して心の中で笑う。
その日、いつもお世話になっている地域のおばちゃんに「渡貫さん、いただきもんのお裾分けで申し訳ないけど、〇〇いらん?」と野菜(何の野菜だったかどうしても思い出せない)でいっぱいになったダンボール箱を手渡された。
僕「こんなに!いつもありがとうございます」
おばちゃん「いやいや、うちも畑を広くやりゆうもんやき、どうぞもらって!」
と言って、おかしそうに笑った。
その笑いの意味は?さらに会話は続く。
おばちゃんは、あちらこちらの知り合いの畑から採れた野菜をもらう。自分で栽培している畑に加えてご近所さんのやっている畑の収穫物がお裾分けとして集まってくる。だから、その畑も「自分の畑」と考えて、「広くやりゆう」と言う冗談だった。
なるほど、そういうことか。
土佐町に来てはや九年。冒頭のように、僕たちも地域の方々から旬の野菜などをいただくことが増えた。それは、単に食材が手に入ると言うだけでなく、僕ら家族の存在がこの土地に受け入れられてきたことを実感できる大切な交流でもある。
写真:笹には柿の木がないので、毎年友人宅の敷地内にある渋柿を採らせてもらってる。これも僕らが広くやりゆう場所のひとつ。収穫した柿のヘタと小枝の形を剪定鋏で整え、皮を剥き、熱湯に数秒浸したら、専用の吊るし具を使って竹竿に干す。二ヶ月もすれば美味しい干柿のできあがり。でも、写っている小猿さんたちに気を付けないと、完成する前にどんどん減っていってしまう。