目の前に現れた男性の姿を見て、僕は言葉を失っていた。
彼の肌は健康的に浅黒く、腰まで届く長髪、胸板は厚く逞しい。
そして、なぜかフンドシ一丁だった。
<和製ターザン>と言う表現がぴったりな彼は、生まれてまだ間もない娘を大事そうに抱えながら、
「連絡していた誠です。まこっちゃんって呼んでください」
と丁寧に自己紹介した。
運転席から優しい雰囲気の女性が出てきて、よろしく、とお辞儀をしてくれたとき、僕はやっと我に返って、まだ少し混乱する頭を下げ挨拶した。
まるでONE PEACE(読んだことないけど)に出てきそうなキャラ設定の家族で、最初戸惑った僕の心が次第にワクワクしてくる。場をオープンにして良かった、と思う。だってこんな出立(いでたち)の人と縁が繋がるなんて、ラッキーでしかない。
見た目からは想像しにくいほど、物腰の穏やかな話し方な「まこっちゃん」は、旅の途中に寄ったブラウンズフィールドで僕らのことを聞き、九州に帰る道中で、笹を訪問してくれた。彼らは地元を盛り上げようと、地域住民と繋がって地場産食材を使った加工品を原材料から育てて加工販売を生業としている。その他にもイベントを運営したり、地場産業のお手伝いしたりしているそうだ。仲間と一緒に忙しくも充実した毎日を送っているのが、話しから伝わってくる。
この辺の川の水がとても澄んでいると褒めてくれたので、近くの川に案内した。
時は10月上旬。水温と日差しに夏の面影は無い。しかしそんなことお構いなしに、まこっちゃんはざぶんと飛び込み、気持ちよさそうに泳いでいた。その姿は人魚にも見える。触発されたうちの次男も一緒に入ったが、すぐに出てきて寒さに震えていた。
水を滴らせながら、岩の上に堂々と立つまこっちゃんは、やっぱりターザンだ。
ぜひうちに泊まってほしかったのだが、その日は僕らに別の用事があったので、また会うことを約束してお別れした。
数時間の滞在だったが、数年分のインパクトが残った出会いだった。
その夜、まこっちゃんのインスタをチェックしてみると、なんとフォロワー2,000人以上の有名人だった。彼の投稿や活動の様子を見ながら、またワクワクしたのだった。