とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。
鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。
日常
5月。田んぼに水が入り、水面はまるで鏡のように空の雲を映す。苗床では稲の赤ちゃんが緑の絨毯のように生えそろい、田植えの日を待っている。
ある日の夕方、田んぼのそばでカメラを構えていた。「何を撮りゆうが?」背後の声に振り向くと、近所の人だった。「田んぼに映った夕焼け雲が奇麗やと思って」と答えると、 その人は笑って言った。「私には毎年、いや毎日見慣れた風景やけど」
撮影していたのは自宅から徒歩1分。私にとっても見慣れているはずの場所だった。でも、その日常の風景をはっとするほど美しいと思うことがある。この日もそうだった。
ある時は道端に咲く小さな花だったり、山並みの上に浮かぶ黄金色の月だったり。雨が降ったあとの川の蒼さやウグイスの声も然り。一見何げない、身近な存在にあらためて気付く時、今まで一体何を見ていたのかと愕然とする。
私たちが生きる世界は美しさを併せ持つ。その美しさは身近なところにもちりばめられ、見ようとしないと見えないものがある。逆に言えば、見ようとしたら見えるということだ。
何げない日常が今日という日を支えてくれている。日常が 特別。高知に来て、尚更そう感じている。
(風)
2023年5月11日、高知新聞に掲載された「閑人調」です。