とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただいています。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。
鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載されます。
シシ肉
猟師さんからシシ肉をいただいた。狩猟期間中、数人で山に入りイノシシを追い、銃で撃つ。血抜きしてさばいた肉は仲間と平等に分け、そのうちの一つを届けてくれたのだ。受け取った肉の塊はずしりと重い。
薄紅色の肉はみずみずしく、ところどころ白や黒のイノシシの毛がついている。
私はシシ肉が好きだ。臭いというイメージを持つ方もいるかもしれないが、そんなことはない。血抜きの方法やさばき方によって味は全く異なるというから、知り合いの猟師さんはこの道の達人だ。
薄く切って焼き、塩コショウしていただいた。シンプルだが一番おいしい食べ方だと思う。シシ肉は甘い。一口食べるたび、体の内側にエネルギーが注ぎ込まれる。今食べているのは昨日まで山を駆け回っていた命。人間は命をいただいて生きている。均等に切り売りされたものだけを食べていた時には得られない体感だ。「私は生かされている」。その体感が日常から切り離されれた時、人間は大切な何かを失うような気がする。
太古から繰り返されてきた生きるための営みが、この地では日常として存在している、猟をし、自ら育てた作物を食べて暮らす人を近くに感じるだけで、背筋がしゃんと伸びる。
(風)
2024年2月8日の高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。
猟師さんからいただいたシシ肉について書きました。
切ったまま、塊のまま、イノシシの毛や血がついた、どさっと手渡される肉。ツヤツヤと光って、みずみずしい肉。さっきまで山で駆け回っていただろう肉。食べたらエネルギーが満ちる肉。シシ肉をいただくたび、人間はだれかの命をいただいて生きていることを強烈に感じます。猟師さんがいて、山に猪がいるからこそ得られる体感です。その体感を得られる環境は、実はなかなかないのかも…。
シシ肉はとてもおいしいので、いただいたら小躍りします。塩コショウして焼いて食べるのが最高ですが、野菜をたっぷり入れたシシ汁もおすすめです。