小学生の頃、一人でバスにのって大川村の白滝に行ったことがある。
昔のこと、狭いがたがた道で下には川が流れていて落ちたらどうしようと不安やった。
行けども行けども曲がり道で途中家もない山奥。
ようやっと着いた。
そこは目をみはるような別世界。バス停で降りるとお店。そこから上を見上げると段々に小さな家が並んでいて、庭のあるような家は見当たらず、もちろん田圃や畑もない。
おばの家はお店のすぐ上で、その横にコンクリートでできた谷があり、水が勢いよくゴーゴーと流れ、黄土色やったか粘土色やったか今まで見た水の色とは全く違った。
バス停の下には大きなお風呂があって、煙突からは煙がモクモクと流れ、一日中いつでも入れた。
お風呂に連れていってくれたのは従姉のひなちゃん。結婚したばかりで、子どもがいなかったのでよく面倒みてくれた。姉のいない私はとてもうれしくてつきまわった。
おばの家を少し行くと商店街があり、果物屋、散髪屋、電気屋、靴屋等々狭い間にひしめくように建っていた。パチンコ屋もあったという事をあとから聞いた。
映画館もあって、夕方みんなでぞろぞろと歩いて観にいった。定かではないけれど川向いにあった気がする。
人もいっぱいおった。おばちゃんだけでなくおんちゃんも、おしゃべりをしたりお茶をのんだり暢気にすごしていた。今なら交代制だとわかるけれど、一日中忙しなく働いていた時代だったので不思議やった。
それより何よりひなちゃんの家に行くと、ごはんが電気で炊けるという炊飯器があり、おくどで薪を使ってごはんを炊いていたわが家とは大違い。トースターもあってパンも焼いてくれた。はじめての連発に只々ビックリ。
いつのまにかミシンでスカートも縫ってくれていてうれしかった。
その頃、白滝の銅山で働いていた大好きな父に会いに行ったはずなのに、あまりにもビックリの連続に、その時ばかりは父との事をあまり覚えてない。
次の日、父から渡された大事な我家の生活費をひなちゃんがストッキングに入れ、腹巻にしてしっかり結んでくれてバスに乗った。
大人になったら、炊飯器の買える人のお嫁さんに絶対になると決めた。
あれから60年近くが過ぎ白滝銅山は廃坑となり、何度かとおってはみたけれど商店街がどこにあったのか、叔母の家はどこだったのか跡形もない。
ただ、道の下にあったお風呂屋の跡はわかった。
私の中の白滝は、住んでいた人たちにとっては全く違うのかも知れない。