「線は、僕を描く」 砥上裕將 講談社
生きていく気力を失うほどの痛手を負ったとき、人はどうやって生きのびていくのでしょう?
どのくらいの時間をかければ、再び生きていく気持ちを取り戻せるのでしょうか?
大学生の青山霜介の場合は“水墨画”との出会いが“それ”でした。全く水墨画の知識はなく、興味関心もなかった霜介でしたが、アルバイト先で出会った水墨画が、恢復へと導いてくれたのでした。
水墨画とは筆先からうまれる「線」の芸術です。そして線が描くのは題材である草木の命です。草木の「生」に寄り添い、有りようを探り、描きながら、霜介は再び生きる力を取り戻していきます。
霜介を取り巻く登場人物も魅力的ですが、なかでも師匠である湖山先生の言葉は含蓄にあふれています。「できるのが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」「挑戦と失敗と繰り返して楽しさを生んでいくのが、絵を描くことだ」などなど。これらの言葉は主人公にかけられた言葉ですが、読み手の私にも響く言葉の数々に出会えた本でした。