七里回りの一ノ谷のうちに岩獄山と言う山があって、そこに三十三尋(約五十メートル)の当山随一の大桧があった。
はるか昔のことである。新助と呼ぶ杣人(きこり)がこの大木に斧を入れることになった。半分ほど伐り口をあけて、その日は暮れてしまった。翌朝、山に登ってみると、伐り口はもとの通りになっていた。新助は不思議に思いながらも、その日も斧を振って日が暮れた。その夜、新助が暗闇の中からのぞいていると沢山の小人が現れて、新助の伐ったコッパ(木片)を取り集めては継ぎ合わせ始めた。驚く胸を押さえながらも、じっと見ていると一人の小人がつぶやいた。
「このコッパを焼いては伐り、伐っては焼きして、三十三日間続けられたら、さすがこの大木も何ともならぬわい」
これを聞いた新助は、その翌日から伐っては焼きして三十三日間で、やっと伐り倒すことができたという。
瀬戸と南川地区の境界あたりに岩獄山と呼ぶ山があるが、この山と伝説の山と同一であるかは定かではない。
町史