石原の川に「モリタカ渕」という呼び名のついた渕がある。
覆いかぶさった木の枝で薄暗い。渕は深く、そこへ落ち込む水は轟々と腹に響くようであった。
小学校に入って何年か前から、モツゴ釣りをしていた私に祖父母がよく、
「むかしモリタカという人が死んだ渕じゃ。こけたら助からんきに、行きなよ」
と言った。
自分も最初はこわい渕だと思って、そこで釣るのを避けていた。しかし、他の似たような渕で釣っているうちに、いつしか「モリタカ渕」でも釣るようになっていた。
そして、小学校入学を直前にひかえたある日、自分としては忘れ得ぬ記録が、この渕で生まれた。
その日、いつものように、そこの深い渕でモツゴを釣った。よく釣れた。
そのうち何気なく、深い所から下へ流れる浅い瀬に餌を流した。それまではそこで釣ったことはなく、初めての場所だった。
すると、流してすぐ、強烈な引きで竿がキューンと曲がった。モツゴ釣りにはない引きだった。
全く経験のなかった引きに、テグスが切れるか、竿が折れるかもと、はらはら、どきどきしながら、四苦八苦して釣り上げるとアメゴだった。釣ったあと、
“アメゴはこんなところで釣れるのか”
と思い、しばしその瀬を見詰めた。そして、この「モリタカ渕」は、自分が生まれて初めてアメゴを釣った場所、という記憶よりも、記録の一つになったと、子ども心にもそう思った。
帰って計ったアメゴの寸法は忘れたが、結構大きかった。
もう80年も前のことだが、あの強烈な引きは手首に残っている。
もう一つ「セイゴ渕」という渕がある。ここは「セイゴ」という人が死んだ渕だと祖父母から聞いた。
この渕は広く、日も当たって明るい。しかし巨岸がどんと座り、その下はえぐられたようにくぼんで、魚には絶好の隠れ家となっている。
そのためここは、釣るよりも潜って突く方に適している。
ここに初めて潜ったのは、小学校の高学年になってからであった。金突鉄砲を持って潜った。
深いので最初は、底にたどりつくのがやっとだった。大きく息を吸い込んでおいて、何度も潜り直した。案外早く、岩の底まで潜れるようになった。
そこで似た巨岩の底は、アメゴやイダの宝庫のように見えた。鯉も居た。大きなアメゴが突けた。
色んな場所で釣り、潜って突いた。その中で「モリタカ渕」での思い出が深いのは、そこで人が死んだという言い伝えをかいくぐって行き、そこが生まれて初めてアメゴを釣った場所になった、という思いが強いからだろう。
「モリタカ」という人も「セイゴ」という人も、ここへアメゴをとりに行って、死んだのであろうか。
中屋 真由美
( ΦωΦ )年に1度の早明浦ダムマラソン大会の時しか訪れる機会も有りませんが〜ホントに素晴らしい景色ですね!!
空と森と水の綺麗さには心が洗われる様で~とても癒されますm(_ _)m
とさちょうものがたり
中屋さま、コメントありがとうございます。ぜひ土佐町にこの風景を見にきてくださいね。さめうらマラソンでは今年もとさちょうものがたりはTシャツの製作販売で関わっていきますのでこちらもよろしくお願いいたします^^
KAHO
初めまして。
高知の渓谷を愛する者です。
こちらで紹介されているモリタカ渕とセイゴ渕へはどのようにすれば辿り着けますでしょうか。
写真の青がとても綺麗で,実際に足を運んでみたいと思いました。
詳しいアクセスを是非お伺いしたいです。
よろしくお願いいたします。
とさちょうものがたり
KAHOさま ご質問ありがとうございます。なかなか説明の難しい場所なのですが、ざっくりと地図にするとこのようになります。降りる道がありませんので、川に降りる際は蛇などにご注意ください。https://drive.google.com/open?id=1geuItFqGO7sYt7Nrcldj1XI0_aeQ0wZA&usp=sharing