「ひゃくはち」 早見和真 集英社
人間の煩悩は百八。そして主人公青野が青春をかけた野球ボールの縫い目も百八だという。
補欠でありながらも甲子園への譲れない夢をもっていた青春時代と、八年たってサラリーマンになった自分を、行ったりきたりしながらの野球小説で、家族小説で、友情小説で、初恋小説です。
いつもは表情に出さないが息子が甲子園に出られると聞いて、「誰かの身になってあげられる人間のほうが、野球だけの人間よりよほど価値があるのです。やるだけやってそれでも駄目ならその時は胸をはって帰ってくればいいんだから。がんばれ」とコタツにつっぷして大泣きした父親がおくった手紙も心に残る。
川村房子