楽しかった蝉とり
梅雨の合間の静かな朝、窓を開けて新鮮な空気を胸いっぱい吸って、病院生活を忘れて幸せを感じる。都会では味わえない最高の気分で今日1日を過ごせたらと、東を向いて合掌。
南の小高い山の木々も、風もない静かな朝を直立不動で立っている。朝食を食べ終わって、ベッドの家で一休み。自然と幼い頃の思い出へとつながる。
お国のため、若き命を捧げた3歳年上の兄との思い出、蝉とり。
細長い竹の先に、モチを塗った杭をさして兄が持ち、私は母の作った小さなコバン(*編集部注 竹でできた鳥籠)を持って、いつも行くのは家の近くの墓地でした。
ミンミン蝉や大きなクマ蝉、カナカナ、ヒグラシもいました。兄が、鳴いている木の下へそっと行って、長い竿の先のモチにくっつけるのです。コバン持ちの私は静かにして、木の陰に隠れて、竿の先にくっついた蝉を外すのです。
大きな蝉は羽を残して逃げたり、体中がモチだらけで取れなかったり、私の手はニチャニチャ、足もとの枯葉や草に拭き付けたり、服に付かないように、大声も出せずに頑張ったのでした。スリル満点の、兄と妹だけの楽しい時間でした。
コバン一杯になると、家の鶏に卵と替えてもらうのです。モチだらけの蝉を、喜んで食べてくれました。田舎ならではの楽しい兄妹の思い出です。
都会生活もありましたが、やっぱり田舎での思い出が幸を感じ、生き甲斐ともなるのではないでしょうか。まだまだ長い過去の思い出を一人楽しもうと思って、頑張ります。
(続く)