私が小学生の頃、土佐町はまだ土佐村だった。
秋になると昔の公民館で農村歌舞伎が催されていた。
祖母は、踊りや芝居が好きで、それにも毎年出演していた。私も小学生になると、いとこと二人、夕方祖母に連れられて森にあった民家のけいこ場へ、暗い道を歩いて行った。
その年の私の役は、お姫様で、両手を胸の前に、着物のそで口をおさえ、右手は左へ、左手は左へそろえて動かないで、じっと座り台詞は「いやじゃいやじゃ、江戸も東もいやじゃいやじゃ」と「さあ行こう!今すぐ行こう」の二つだった。家で何回も何回も練習させられたので、今でも憶えている。
その頃は、マイクがないので、私の声は小さくて祖母は気に入らず、日曜日には近くの滝の下へ連れて行かれ、水の音に負けない声を出せと、スパルタでしごかれた。それでも祖母にとっては、満足のいく仕上がりではなかったと思う。
本番当日、出番の前には祖母が生卵の上をコンと割って「飲め」と言うのだった。私はそれを嫌々飲んだ。大きい声が出る様に祈りを込めて…。祖母も私も。
舞台に上がり、私が台詞を言うと、舞台の下で見ていた妹が私より大きな声で「いやじゃいやじゃ」と言った。
毎日の練習で妹も台詞をマスターしていたのだった。はずかしかった。
今もテレビで農村歌舞伎のニュースが映ると、あの頃のことを、懐かしく想いだす。
式地健男
拝読いたしました。 昔を思い出すね〜。
鳥山百合子
式地さんコメントありがとうございます。農村歌舞伎は土佐町の色々な場所で行われていたのでしょうか?ぜひ見てみたかったです。
このお話を書いた西村まゆみさんにもお伝えしておきますね。