(「シバテン その2」はこちら)
空腹にヒダル食いつく
空腹で山道を通ると「ヒダルが食いつくぜよ」と、言われる。
このヒダルもシバテンと同格ばあ、恐かった。腹を透かして山道を歩きよると、輪差にした葛が、山の中の枝からぶら下がってきて、「ちょっこりこれに、首を突っこんでみや」と言うたそうな。
突っこんだら最後、ギューギュー締め上げられておしまいぜよ、と言うのだった。
エンコウ、子どもの尻を抜く
正木の宮の渕にゃ、エンコウらがおってのう。そりゃ、頭のテンコス(てっぺん)に皿をのせちょる。
それに水がたまっちょるそうな。皿が傾いて、水がまけるとまったいが、水がたまっちょるエンコウはめっぽう強うて、川で泳ぎよる子どもの尻を抜くげな。
手と足の指には水かきがあって、泳ぎもうまい。キュウリが大の好物じゃけん、瓜を食べたら川へ遊びに行かれんぜよ、とも話してくれた。
私はシバテンもヒダルもエンコウも同一のものか、あるいは従兄弟同士の間柄ぐらいのもんじゃと、ずーっとこの事が長い間、頭に染み込んで、強がっていた者であることは真実である。
「シバテンの棲んでいたあたりにビルが建ち」
こんな川柳がテレビに出た事がある。
昔のシバテン街道の赤羅木峠には、今、県民の森、国民宿舎が建っていて、伊藤さんという方が、ひとりで番をしているそうだが、「シバテンは出んかね」いつか機会があってその方に会えたら、一ぺん聞いてみようと思っている。
式地俊穂
土佐民話の会編「土佐民話(特集しばてん噺)」より