「広島の原爆」 那須正幹 文 , 西村繁男 絵 福音館書店
広島に原爆が投下される前と後の町の様子が、この本には描かれています。
本の後ろには一枚ずつの絵の中に番号がふられ、描かれている場所や人々の様子の細かい説明が文章でも記されています。西村さんは、被曝当時10代〜30代だった方たちの証言や資料を元に客観的な事実を描こうとしたそうです。
ある絵に描かれている「交番の仮眠室をのぞいているなっぱ服(作業服)の少年」の説明です。
『少年は赤十字病院入り口で被曝した。その時の様子を「すぐ捜したのが弁当箱とメガネでした。私は小学校三年生くらいからメガネなしでは、何もできんかったぐらいですから。それで、地べたを這いまわしてやっとレンズ一枚拾いました。縁は焼けとりました。そのレンズを持って、目にかざして方向をあてながら走るんです」と手記に書いている。』
確かにメガネをかけた少年が交番と隣の食料品店の狭い隙間にたちながら、交番の中を覗き込んでいます。
絵に証言が重ねられると、その絵が急に自分のそばに近づいてくるような感覚になります。
この場所で暮らしていた人たちの「事実」がとても細かく記されているのです。広島という町で暮らしていた人たちの生活や思いや人生がたしかにここにあったのだという西村さんの叫びが、一枚ずつの絵の中から聞こえてくる気持ちがします。
西村さんはこの本をつくるために一年近く広島に住んで証言者を訪ね、資料を探し、そのあとも何度も足を運び、より克明な絵を描くために長い時間をかけたそうです。
昨年、土佐町に来てくださった西村さん。あの笑顔の向こうには表現者としての並々ならぬ思いがあったのだ、とあらためて感じています。
鳥山百合子