「旅をする木」 星野道夫 文藝春秋
「ああ、その気持ち、私も感じたことがある」と星野さんの本を読むたびに思います。まだ輪郭しか見えずはっきりと言葉にできないような思いを、星野さんは決して難しくない言葉で目に見えるかたちにしてくれていて「ああ、こういう言い方があったのか」と新しい発見をしたような、懐かしい誰かに再会したようなそんな気持ちでページをめくります。
『人生はからくりに満ちている。日々の暮らしの中で、無数の人々とすれ違いながら、私たちは出会うことがない。その根源的な悲しみは、言いかえれば、人と人とが出会う限りない不思議さに通じている』
同じ地球上で今同じ時間を生きている人たちは気が遠くなるほどたくさんいて、すれ違うことも出会うこともなく、お互いの存在さえ知らないままお互いの一生を終えることがほとんどなのかもしれません。でもそんな中でもなぜだか出会って、怒ったり笑ったり泣いたり、悩んだり喜んだり苦しんだりしながら時を重ねる。目の前のその人とのやりとりや重ねてきた時間は、出会えたからこそのこと。やっぱりとてもかけがえのないことなのです。
星野さんはいつもそのことを思い出させてくれます。