「ながい旅でした。」 砂浜美術館 編集・発行
「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」
この本を作ったのは、高知県黒潮町にある「砂浜美術館」。
町に新しいハコモノを作るのではなく、もともとここにある海や砂浜、ここにある季節に沿った人々の営みや知恵を「作品」として、この環境そのものを美術館にしようという考えで砂浜美術館は生まれたそうです。
時は1989年、今から40年前。その考えにとても共感します。
40年もの間、この考えでやり抜いてきたことには並々ならぬ苦労もあったことでしょう。
今年のゴールデンウィークに訪れた黒潮町の砂浜美術館でこの本を購入しました。少し黄ばんだこの本を手にした時から、この本の持つ体温が伝わってくるようでした。本にはそういう力と役割があるように思います。
黒潮町の海に打ち上げられたものが紹介されていて、くじらの骨ややしの実、船のスクリューや気象観測器といったものもあります。
2枚目の写真はその中のひとつ「海流ビン」です。アメリカのブライアン君(当時11歳)がタンカーで働く人に頼んで太平洋側に流したもの。9ヶ国語でメッセージが書かれており、瓶の口はロウで固められて水が入らないように工夫されていたとのこと。16歳になったブライアン君からは「理科の実験で流した」と返事が届いたそうです。流れ着いたものにも物語があるのですね。
この本の中にこんな文章があります。
「海岸に流れ着いたものを、単なるゴミとしかとらえることのできない感性より、素敵な砂浜美術館の作品、そうとらえられる感性。それが私たちの求める姿です。」
私たちのそばにも「作品」となりうるものが、あちらこちらにあるのではないでしょうか。
鳥山百合子