土佐町早明浦ダムのほとり、上津川地区の高橋通世さんが「わらび採りにきいや」と声をかけてくれました。
カゴを背負い手袋をして、いざ、わらび取りへ!
枯れたかや(ススキ)の間を縫うように生えているわらび。わらびは根っこで増えるのだそう。
「どこでも好きなところ取って!」と通世さん。子どもの頃からこの場所で、わらびの収穫の手伝いをしていたのだそうです。
「雨が降ったらようけ太るね。ようけ出だしたらね、3日置かずに取らんと」
茎を折ると、ぽきん、ぽきん、とみずみずしい音がします。収穫したわらびは束にして輪ゴムでとめておきます。こうしておけば湯がく時にバラバラになりません。
「お湯からあげる時、楽やきね!」と通世さん。なるほど!
「おーい、これ見てみいや!」とみせてくれた小さな黒い粒。
これは、鹿のフン!よく見るとあちこちに落ちています。
通世さん曰く、フンの形でオスかメスかわかるのだそうです。「片っぽがケンなのは(とんがってるのは)メス」なのだそう。(左下が確かにとんがっていますね!)
フンのそばには大抵、鹿が通る“獣道”があるそうです。
その獣道を見つけ、罠を仕掛ける。
足跡はないか、“獣道”はないか、猟師でもある通世さんの目は常にその手がかりを探しているのです。
さあ、わらびを湯がきます。
たらいに水を入れて沸かします。
通世さんが収穫したわらびの茎の先は、まるでハサミで切りそろえたかのよう!それにひきかえ、私と友人のわらびの茎はあっちにいったりこっちにいったり…。
たらいの底から小さな水の泡がプクプクと上がり始めました。
「母に習うたんやけどね、温度が75度になった時にわらびを素早く入れる。前に80度でやったら柔らかくなりすぎた。高温でゆがいたら溶けるきね」
「わらびを入れたら温度が60度ばあに下がっちゅうきね。元の75度になったらお湯からあげるんよ」
時々わらびをひっくり返しながら、湯がきます。
なんてきれいな色なのでしょう!あたりは、わらびのいい香りでいっぱいに。
たくさん収穫したので何回かに分けて湯がきました。そのつどお湯からあげ、冷ましながら灰をまぶします。この灰はこんにゃくを作るときにも使う紅葉樹の灰で、ひとつかみ握り、まんべんなくかけておきます。
全部を湯がいた後、わらびと灰を優しくこすり合わせるように、灰をなじませます。
この後、お風呂のぬるま湯くらいの温度の湯にひたひたにつけ、一晩置きます。(山水がある場合は流水につけておく)
「一晩ではまだ苦味がある時があるき、その時はまた水につける。様子を見て、噛んでみて」。
試しにその日の晩、味はどうかと噛んでみたら、あまりの苦さにゴホゴホ咳き込むほど!一日に何度か水を変え、食べられるようになったのはその2日後でした。
お弁当のおかずにぴったりの一品ができました。
わらびの煮つけ
【材料】あく抜きしたわらび・油揚げ・砂糖・しょうゆ・白だし
①わらびを食べやすい大きさに切る。
②わらびを油でさっと炒め、油揚げを加えてさらに炒める。
③砂糖、しょうゆ、白だしを加え好みに味付けをし、コトコト煮る。
帰り際、友人が言いました。
「昔の人にとって、灰はこんにゃくを作ったり山菜のあくを抜いたり、とても大切なものだったんやないかな。昔話に“花咲かじいさん”の話があるでしょう?桜の枝に灰をまいて花が咲く。あのお話が生まれた意味がわかるような気がする」と。
通世さんも蓋つきの入れ物に入れ、大切に保存していました。木を燃やすときに、紅葉樹以外のものが混じらないよう気をつけているそうです。
そのままでは食べられないものを、灰の力を借りることによって美味しく食べられるようにする。なんて素晴らしい知恵!
昔の人にとって、灰は、暮らしに花を咲かせるような存在だったのかもしれないですね。
*あく抜きの方法は人それぞれ。その人ならではの方法があります。