「ヒョウモントカゲモドキと暮らす本」
「とさちょうものがたり」の中の「山峡のおぼろ」、窪内隆起さんの連載。私は窪内さんの話が大好きで、いつも更新を心待ちにしています。『風を切る鎌』の中で”槍担ぎ(やりかたぎ)"の話が出てきましたが、私は祖母に"竿担ぎ(さおかつぎ)"と小学生の頃に教えてもらいました。祖母は私に土佐町の自然の多くを教えてくれ、また早明浦ダムに沈んだ自然豊かな故郷の話をしてくれましたが、今はその事も忘れてしまっているでしょう。ですから、私があの嵐の中で"槍担ぎ"を"竿担ぎ"と聞き間違えてしまったのか、また別の方言なのか今は分かりません。
大体4月上旬か3月末、土佐町には決まって春の嵐がやってきてのソメイヨシノの最後のひとひらまで散らしてしまいます。それこそ、私が祖母から"竿担ぎ"を教えてもらったのも、そんな桜の花びらが叩きつける日のことでした。祖母のお買い物にくっついて末広まで行った帰り道。二人とも自転車に荷物満載だったので、上野地区の桜並木の下で立ち止まって風雨を凌いでいました。空は明るいのに、竹がしなり、若葉を切り揉みする様な風、轟轟と音を立てる山野、目を開けて前を向くのが嫌なくらいの雨。それなのに祖母は全然気にしていないような顔をして、「春の嵐やねぇ」とほんわか笑ったのでした。私も笑って、(こういう山とか川とか風の自由さって大好きだ)と思いました。
さて、前座はここら辺で。
話はだいぶ変わりますが、今回の私の1冊は「ヒョウモントカゲモドキ」について書いていこうと思います。 私は生き物が好きです。植物や動物、魚類など飼育や観察、知識を深めることが趣味のひとつと言っても過言ではありません。と、いいますか、前座でもあるように自然が好きなのだろうと思います。
ヒョウモントカゲモドキとは、別名レオパードゲッコーとも呼ばれ、人気のあるペットです。とは言っても、エキゾチックアニマルと呼ばれる新しい分野のペットですので、知らない方のほうが多いと思います。蛇やトカゲと言った爬虫類、カエルやメキシコサラマンダー等の両生類、チンチラやテグー等のげっ歯類、フクロウやタカ等の猛禽類などが上げられるのではないでしょうか。
私がレオパードゲッコーに出会ったのは偶然でした。大学生の時、社会人になったら蛇を買うつもりでした。しっかり調べてから飼いたかったので下見に、高知にある爬虫類専門のペットショップ(実際にはエキゾチックアニマルが専門のようです)を訪れました。そして、ズキューンと一目惚れでした。笑ったようなお口とぱっちりお目目、ちょこちょこ歩く姿、様々な色と、ぷよっとした尻尾。日本のカナヘビには無いタイプのトカゲに私は魅力されたのでした。
その後、私が調べて分かったのは、レオパードゲッコーはとても飼いやすく、丈夫で、人にとって都合の良い生き物だと言うことでした。
・餌は人工飼料や冷凍コウロギ等でネットでもペットショップでも買える、最大でも30センチ程のケースで済む。
・ワイルドの個体は乾燥や飢餓に強く、水切れにも強い。一応ブリード個体もその特徴は継いでいるが、それほどでは無い。
・出身地は大体シリア、イラン、イラク、パキスタン、アフガニスタン、インドなどである。そのいずれも国際情勢が悪く、動物の輸出に厳しく、ワイルドの個体を手に入れることは難しい。
・国内外でブリードが進んでおり、モルフ=品種がたくさん作出されている。基本的に購入出来るのは国内ブリード個体である。
以上のことでした。つまり、私が見たのはレオパードゲッコーのブリード個体で何かしらのモルフだった訳です。ワイルドの個体は中東の厳しい砂漠地帯で生きている為か、相当生命力が強いようですが、ブリード個体はモルフの維持や新しいモルフの作出の為に交配され飼育される、もしくはペットとして飼育されるため、レオパードゲッコーと言ってもワイルドとブリードでは大いに隔たりがあるということでした。
社会人になり、私はスーパーマックスノーというモルフのレオパードゲッコーを飼いました。名前は”ぱち蔵”です。餌は生きたコウロギが楽だったので、部屋でぱち蔵がゴソゴソ、コウロギかコロコロ音がしている状態でした。高知市内で生き物の音がないマンションで、何気なく心休まった記憶があります。
ぱち蔵は平均値よりも大きくなりました。心配になり専門店の店主さんに聞いてみると、ぱち蔵の祖父の代でジャイアントという大きくなる血統が入っていたのが理由がしれないということでした。どんな生き物でも、餌の与えすぎの肥満や、運動不足は短命の原因になります。運動させていると、必ず私の体の上に登ってモゾモゾしています。(懐いてくれてるのかなぁ…(笑))と感情の分からない、笑ったような顔を覗き込んで見たりするのでした。
ペット。それは完全に人間のエゴの塊です。私は生き物が大好きで、ペットも色々な種類がいます。みんな私たち人間の為に、都合の良いように品種改良された子達です。彼らにとっての幸せ。考え始めると、自分の罪深さを感じてしまいます。私は彼らと一緒にいること、世話をすることが幸せなのですから。
テレビに映る可愛い猫、可愛い犬。見た目を優先したために、体に残った骨軟骨異形成症や股関節形成不全。乱獲によって数が激減してしまった種も数しれず、実際レオパードゲッコーも野生種は減っています。飼い主がおらず殺処分される生き物の数の多いこと。飼いきれず捨てる人の多いこと。それによって崩れる生態系の多いこと。
私たち人間の矛盾。命は平等と言いつつ、一方的に愛玩し、優先順位を付け、生き物の幸せを定義付ける。そういえば自然もそうです。植林だらけの森、頂点捕食者の不在、外来種や国内移入種によって改悪された遺伝的オリジナリティのない川や湖。それでも緑があれば、川が澄んでいれば、自然が豊かだと錯覚する浅はかさ。私はエキゾチックアニマルという新しい分野のペットを飼うことをきっかけにして、今までの人間の営みを考える契機を得たように思います。そして浅はかで愚かな私たちの出来ることは、これ以上の人間の価値観を何かに押し付けないことのみだと思いました。
私はペット達と一緒にいるのが幸せです。私の大きなエゴだけど、大事なペットたち、どうか幸せだと思いながら共に暮らしてください。私はそう祈りながら努力するしかありません。そして、一緒に居てくれてありがとうと、いつも思っています。
長くなりました、それではまたの機会に。