「なぜ人と人は支え合うのか」 渡辺一史 筑摩書房
土佐町のロゴを作ってくれたデザイナーであり友人である品川美歩さんが薦めてくれた一冊。
著者は「こんな夜更けにバナナかよ」という本で障がい者介護の現実を描いた渡辺一史さん。その渡辺さんが、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件後の障がい者を取り巻く現実を書いた一冊です。ちなみに「こんな夜更けにバナナかよ」は大泉洋主演で映画化されています。
この本で主に書かれているのは、いわゆるステレオタイプや聖人君子的なイメージに縛られた障がい者像ではなく、個性が強く周りとのぶつかり合いも辞さない障がい者の面々。
筋ジストロフィーなどの病気により、24時間の介護が必要な人たちが、自身の自立(「自立」というのは本書では「自分の意思で決定できること」と定義されています)を勝ち取っていく様を数多く紹介しています。
障がい者だからどうこう言う前に、人としてかっこいい人たち。そんな人たちが何十年もの間、社会と戦って権利を勝ち取り、現実を変えた例が多く出てきます。
一例として、70年代には車椅子の障がい者はバスに乗るな、電車にも乗るなという風潮がある中で、そんな現実と戦って変えてきたのは他ならぬ障がい者たち自身だったこと。
その戦いがあればこそ、現在ではノンステップバスが普通のことになっていますし、「車椅子は電車に乗るな」なんてことは口にしただけで常識を疑われる世の中になっています。
長くなってしまって恐縮ですが、もう一つ著者が終盤あたりで触れた言葉「私たちはポスト制度化の時代を生きている」。
これは全てにおいて言えることですが、例えば先のバスの例で言うように、戦って新しい制度(システム)を勝ち得た世代というのは本質的に物事の全体像がよく見えている。
対して、その後の制度の中で育った世代というのは、蛇口をひねれば水が出るように、制度があることを当たり前として捉えて本質や全体が見えにくくなっている。つまり、より本質に届きにくくなっている。
「ポスト制度化の時代を生きている」私たちは、想像力を使って制度やシステムを解体しながら前進していく術を磨く必要があるかもしれません。