「THE PASTRY COLLECTION」 郷土菓子研究社・林周作 KADOKAWA
世界の郷土菓子を知るために世界各国を旅した林さんが、旅先で味わったお菓子の数々を紹介しています。
ポルトガルのページを開いた瞬間、たまらなく懐かしい気持ちになりました。私が20代の頃、ポルトガルを旅したことがありました。節約旅だったので町の中は歩いて移動が基本、店先に美味しそうなものがあったら(お財布の中身に少し余裕があって、お菓子が高くなかったら)まず食べてみる。観光名所に行くよりも、町で生活している人たちの姿を見たり、市場に行ってパンにチーズとウィンナーを挟んでもらってお昼ごはんにしたり、自由気ままに行きたいところへ行く旅が好きでした。
あれは多分、ポルトという町に滞在していた時だったと思います。町の大通りから細い裏通りに入ると、路地に向かい合うように建っている家々の窓からロープが張られていて、洗濯物の白いシーツが風ではためいていました。その道の途中にあった小さな食堂。その前には小さなガラスのショーケースがあって、白いお皿の上に丸い黄金色の焼きプリンが置かれていました。「このプリンを食べなかったら絶対に後悔する!」そう思って、食堂に入りました。
そこからです。私の一番好きな食べ物がプリンになったのは。
ポルトの町の雑踏、あの道を吹き抜けていた風、とにかくプリンが美味しかった!ということをはっきりと思い出しました。