この日、下校した長男が外にあるテーブルにランドセルを下ろし、宿題をはじめた。
日がだいぶ傾き、西の空が紅く染まりはじめる時刻。向かいの山の斜面に立つ木々は静かに西日を受けている。あらゆる色がゆっくりと褪せ、風が止み、耳に聞こえてくるのは鳥のさえずりと蛙や虫たちの声。
何かの作業をしていた僕は手を止めて、目の前にある、その場面に見入ってしまった。
僕らは、なんだか素晴らしい場所に暮らしているのだな。
この風景を、息子は大人になっても覚えているだろうか。
でも僕にとって感動的な情景も、物心ついたときからこの環境にいる彼にとっては当たり前の日常。父ちゃんの想いを説明しても理解されないだろう。
人生の一部を過ごすことになったこの土地と時間を評価できるようになるには、一度はここから離れることが必要なのかもしれない。そのときまで、まだあと数年掛かりそうだけど、大人になった彼と「そんな瞬間があった」ことを語り合いたいと思わせるひとときだった。