「幻の光」 宮本輝 新潮社
160ページほどに4編からなる短編集です。
第1篇は表題の「幻のひかり」では兵庫県の尼崎から、子連れで奥能登の海辺の町に嫁いだ女性。尼崎での底辺の暮らしの日々。結婚した夫は幼なじみで、子どもが生まれて3ヶ月が経ったある日、鉄道自殺をしたと知らせが入った。轢かれる瞬間まで後ろをふりむかなかったという。
能登での平穏な日々のなかでも、独り言をいっては死んだ前夫に語りかけてしまう。何をどう考えてもわからない死に方に心が冷とうなっていく一方で、何かにのめりこんで酔いしれるような不思議な歓びをはっきりと感じてしまう。その心情を想像することもできないけれど、これが「幻のひかり」なのかとつい思ってしまった。
こんな短編集があるかと思えば、「流転の海」は第9部までを40年近くかかって書き上げた小説もあります。ほんとに魅力的な作家です。
今月に入ってからの新聞に、「流転の海」の世界を切り取った短編と傑作エッセイが収録されたもうひとつの「流転の海」の本が出たと載っていました。本屋さんに行ってみなくては…。