古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

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「海がきこえる」 氷室冴子 徳間書店

今から35年ほど前に「子どもの本を語る高知大会実行委員会」という有志の会が発足し、15年ほど活動をしていました。これは年に一度、作家や絵本画家、編集者など子どもの本にかかわる方をお招きし、講演会および分科会を開催するというものでした。講師依頼、分科会内容の検討、ポスターや当日資料の作成、会場設営と当日運営…。どれも慣れないことでしたがだからこそ面白く、会の発足した翌年から十数年間、ほぼ毎年実行委員の一人として関わらせていただきました。
径書房の原田編集長さん、デビュー間もない坂東眞砂子さん、画家のスズキコージさん…。
たくさんの方が来高してくださいましたが、その中のお一人が氷室冴子さんです。北海道に生まれ育った氷室さんは高知の夏の暑さ、海や空の青さ、土佐弁の響きにいちいち驚き、興味を持たれ「ここに暮らす学生たちはどんなことを思い、恋愛するのか?」とついに、高知を舞台とした小説を書かれる決心をされたのでした。 そのロケハンに同行し、原稿執筆が始まってからは会話文の土佐弁変換などを手伝わせていただいたことは、今でも自慢です。

まだメールなどない時代でしたから生原稿がファクスで送られてきました。誰よりも早く、大好きな作家の原稿を読むことができるなんて夢のようでした。ファクスがピッと音を立てると胸が高鳴り、拓は?里伽子はどうなった?とノロノロと出てくる原稿にもどかしく思いながら原稿が印刷されるのを見ていました。 読み終わったころを見計らってかかってくる氷室さんからの電話には、毎回ドキドキしたものでした。なんか変なこと言ったらどうしよう、がっかりさせるような感想だったらどうしよう…。

でも氷室さんはこっちの気持ちを知ってか知らずか必ず「古川ちゃんにそういってもらえると嬉しいな~。いつもありがとねぇ。来月もよろしく~!」と機嫌のよい声を返してくれました。 一緒にロケハンにまわった場所のいくつかは、わたしの自宅のそばにあります。

あたたかな一月のある日、散歩がてらその海岸に行ってみました。誰もおらず聞こえてくるのは潮騒ばかり。「ああ、海がきこえる」と思いながらしばらく過ごしたことでした。

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「ライオンと魔女  ナルニア国ものがたり1」 Ⅽ.S.ルイス作 瀬田貞二訳 岩波書店

少しずつ長い物語にも手を伸ばし始めた2年生の夏休み前、一冊の本が目に留まりました。

二人の女の子を背に乗せ疾走するライオンと、それを見守る怪しげな生き物が描かれた鮮やかなオレンジ色の表紙。魅惑的なタイトルは『ライオンと魔女』。これは、間違いなく面白い本だ!

帰宅してすぐに本を開きました。子どもだけの疎開、衣装だんすの向こうに広がる異世界、強い力を持つ白い魔女、ハラハラドキドキの攻防…。何とか読み通すことはできましたが、「この物語の本当の面白さをくみ取ることはできなかった」と感じ、「本に負けた!悔しい」と母親に告げたあの時の敗北感は、今でもリアルに思い出せます。

本を楽しむには文字が読めるだけではだめだということ。読解力や物語の背負う世界観を理解する力がないと、隅から隅まで堪能することはできないことに気が付かされたのがこの『ライオンと魔女』でした。本棚でこの本を見るたび嫌われているような心地がして、足早に前を通り過ぎるのでした。

再び『ライオンと魔女』を手にしたのは5年生の夏。なんとなく本に呼ばれた気がしたのです。恐る恐る本を開き、再び訪ったナルニア国の楽しいことと言ったらありません。ルーシーに共感し、アスランに憧れ、タムナスさんの悲劇に心を痛め、エドマンドが許されたことをうれしく思い…。ナルニア国に住人の一人として物語を生き、冒険を心ゆくまで楽しみ、余韻に浸りながらなんとも幸せな気持ちで本を閉じたときの満足感。

あきらめなくてよかった、読み直してよかったとしみじみ思ったことでした。

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「ちいさいおうち」 バージニア・リー・バートン文,絵  石井桃子訳  岩波書店

物心ついてから今に至るまで、いつも傍らには本があったように思います。 本は善きもので、信頼に足る存在だと私に教えてくれたのは『ちいさいおうち』でした。

小学校に入学してひと月ほど経った頃でしょうか。父に作ってもらった「代書板(1センチほどの厚さの木の板で背には名前が書いてあり、借りた本の代わりにその場所に差し込む)」を持って、学校図書館に入ったときの感激。どの壁も本棚でうまり、まだ読んだことのない本が想像もしたことのない冊数で目の前にあるのです。こんな素敵な部屋が学校にはあるんだ!すご~い!! けれども1年生が借りられるのは1冊だけです。吟味に吟味を重ねているときに目に入ってきたのが、美しい空色に縁取られた小ぶりな絵本。赤く可愛らしいおうちとシンプルな花の絵も気に入り、表紙を開きました。一冊読み終えるのに、15~20分ほどかかったでしょうか。読み終えたとき、15分前の私とは全く別人のような気持ちがしていました。

なにしろちいさいおうちと一緒に100年を超す長い時間を生き延び、やっと元の場所に帰ってきたのですから。 すっかり老成した気分でため息をつき「本はすごい!この部屋の本を全部読もう!」と決心しました(笑)。

それからずっと今に至るまで、本は魔法の世界に誘い、時には励まし支えながら、親友の1人として寄り添ってくれています。 本の世界に遊ぶ楽しさを教えてくれた『ちいさいおうち』に感謝しながら、今日もこどもたちに本を手渡しています。

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 「雪の写真家 ベントレー」 ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン文, メアリー・アゼアリアン絵 BL出版

子どもと子どもの本に関わる仕事を20年ほど続けてきました。子どもたちに本を手渡す仕事は、世の仕事の中でも1位、2位を争う素敵な仕事ではないかしら?と思っています。 子どもたちに本を手渡す度に幸せを感じるのですが、それと同じくらい心が弾むのは、子どもの本に関わっていなければ、知らずに終わったであろう本に出会ったときです。この絵本もそんな一冊です。

今年の3月まで勤めていた高知こどもの図書館は1999年12月に開館した、日本で最初のNPO法人が設立し運営する図書館です。この「雪の写真家ベントレー」が発行されたのも同じ年の12月。

開館してしばらくしてから図書館の蔵書に加わった絵本です。伝記絵本として、美しい冬の絵本として、大人にもお勧めの絵本として….。様々は視点から紹介したことでした。

150年ほど前のアメリカの豪雪地帯の農夫の家に生まれ、50年に亘りひたむきに雪の写真を撮り続けたベントレー。学校には2、3年しか通うことができず独学で雪の研究をし、結晶の写真を撮っていた彼は、いつしか世界中のだれもが認める「雪の専門家」となっていました。けれども裕福とは言い難い農家でしたから、苦労は多かったようです。

ベントレーが雪の結晶を写せる顕微鏡付きカメラを手に入れたのは17歳の時でした。「雪なんかに夢中になって、ウィリーには困ったものだ」とこぼしていた父さんが、10頭の乳牛よりも値段の高い立派なカメラを買ってくれたのです。変わり者のベントレーを家族がどんなに愛していたかが伝わってくるこのシーンは、何度読んでもグッと胸に迫ってきます。

生前ベントレーは「酪農家からは一杯のミルクを。私の写真からも同じくらい大事なものを受け取ってもらえるだろうと、私は信じている」と語っています。 美しく温もりのある版画で綴られたこの絵本からも、一杯のミルクと同じくらい大事なものが伝わってきます。

古川佳代子

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