古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

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「これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン」大田啓子著 大月書店

雇用や大学進学、給与面など性差別による直接の不利益や影響を受けるのが女性であることから、性差別やジェンダー格差について語られるとき、その対象はもっぱら女性や女の子です。

では、男の子はのびのびと育っているかといえば、そうも言えないようです。 男の子もやはり「男らしさ」を求められ、周囲の大人やメディアの情報を通じて「男の子とはこうあるべき」と刷り込まれ、その影響により”男になって”いくのです。そして、そのような価値観を植え付けられた男性は、性差別的な考え方を身につけてしまうのでした。

とすれば、これから成人する男の子は、どのようなことに気をつけて育てればよいのか、という視点から編まれたのが本書です。性差別構造の強い社会に生まれた男性は、「男性である」だけで強い立場にあります。

これからの男の子や男性にはその強い「特権」を武器に、性差別や性暴力に積極的に対抗してほしいという著者の思いがひしひしと伝わってきました。

 

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「ほんとうのリーダーのみつけかた」 梨木果歩 岩波書店

戦後75年。日本は戦争のない平和な国だといわれるけれど、実はそう思わされているだけではないのかしら、と時々不安になる時があります。そんなとき目に入ってきたのが本書のタイトルでした。

この不安な気持ちを平らげ、私を導いてくれるリーダーの見つけ方を教えてくれるのか、なんとありがたい!と読み始めたのですが、それは大きな誤解でした。そもそも、自分で考えることを放棄して「だれか」にすがろうとすることこそ「危うい」のだと、ガツンと叱り飛ばしてくれたのが本書です。

社会が急激に変化し前例のない時代に、それでも何とかして生き延びなくてはいけません。そしてそれは、あとあと悔み、眠れない夜となるような手段ではない生きのび方でありたいものです。

その道を一緒に歩いてくれるリーダーを、そしてもしも悔むような選択をしてしまったとしても一緒に耐えてくれるリーダーを、自分の中に育てていくことが「ほんとうのリーダーをみつけること」なのだと語りかけてくるのでした。

 

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「貸出禁止の本をすくえ!」 アラン・グラッツ作 ないとうふみこ訳 ほるぷ出版

E.L.カニグズバーグの『クローディアの秘密』を読まれたことはありますか?

「他人とは違う」自分になりたくて、弟を相棒にしてメトロポリタン美術館に家出する女の子が主人公の読み応えのある作品です。以前、NHKのみんなの歌で流れていた「メトロポリタン美術館」の歌詞はこの作品からインスピレーションを得たとのことです。 この世界の人々に愛され、読み継がれてきた物語が「小学校の図書館にふさわしくない」作品だと貸出禁止になってしまいます。

主人公のエイミー・アンは13回読んでもまだ読み返したいと思うくらい『クローディアの秘密』が大好きな女の子。貸出禁止処置に断固反対で、心の中で猛然と反対意見を述べるのですが、実際に声にすることは難しく、せっかく参加した公聴会では言葉を飲み込んでしまいます。けれども最初は11冊だった貸出禁止本が、その後どんどん増えていってしまう事態に我慢できず、突飛な手段で、貸出禁止の本をすくうことを思いつきます…。

エイミー・アンとその仲間を応援しつつ、司書の1人として、いろいろと思いながら読んだことでした。

 

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「本好きの下剋上」 香月美夜著 TOブックス

まだ高知こどもの図書館に勤めていた時に、半端ない本好きの方から紹介いただいたのがこの作品です。

早速オーテピアに借りに行ったのですが残念、貸出中。それではと予約をしたところ予約数が10件を超えていて唖然としましたが、期待は否が応でも高まるというものです。

読書が何よりも好きで、読書のためなら食事を抜くのも睡眠時間を削るのも全く苦にならない女子大生が命を落とし、異世界の貧しい兵士一家の虚弱な5歳の女の子として転生するところから物語は始まります。 識字率が低く、書物はほとんど手に入らない状況に少女は「無ければつくればいいじゃない」と本を作ろうとしますが、肝心の紙すらない…。

本に対する執着心と図書館に対する絶対愛!万人向けの作品とは言い難いのですが、現在、新刊を追っかけている私のお気に入りのシリーズです。

 

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「廉太郎ノオト」 谷津矢車著 中央公論社

上野の東京芸術大学音楽学部校舎の前を通るたび、ここで学ぶ人達を羨ましく思っていました。音楽の才能に恵まれ、努力することを厭わない、選ばれし人たちのための学びの舎。なんて素敵な別世界!

とはいえ、芸大にも文化や音楽が理解されない不遇の時期があり、教授陣や学生たちが一丸となって艱難辛苦を乗り越え「音楽の府」の地位を築いたのでした。その中にいた一人が滝廉太郎です。日本の音楽家の中で燦然と輝く大作曲家の一人の滝ですが、彼だって初めから大作曲家だったわけではありません。 西洋音楽の洗礼を受け、自らの音楽を求める廉太郎と音楽学校の歴史が絡み合い、音楽を通じて芸術黎明期の時代をあぶり出している切ない青春物語。

秋の夜長にいかがでしょうか?

 

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「ポリぶくろ、1まいすてた」 ミランダ・ポール文 エリザベス・ズーノン絵  藤田千枝訳 さ・え・ら書房

7月1日から始まったレジ袋有料化。大量のプラスチックごみ削減に対する貢献度はささやかなものだとも聞きますが、意識改革のとっかかりとしては有効なのではないかな、と思います。

ポリぶくろ(プラスチックバッグ)は便利なふくろです。けれどもすてられたポリ袋を食べた動物が死んでしまったり、庭に埋めたら草が生えなくなったり、大量の蚊の発生の原因になったりと様々な問題を引き起こしています。できるだけ使用しないことはもちろんですが、すでにあるポリ袋はどうすればよいのか?

ゴミにするのではなく、リサイクルすることで、環境改善に貢献するだけでなく、女性の収入の道を切り開き、女性の地位の向上の一助となった活動がありました。

ガンビア共和国(西アフリカ)のンジャウ村から始まったポリ袋のリサイクル活動は、近隣の住民の環境問題への関心を喚起し、公共図書館開館にも繋がったそうです。 小さな取り組みが、大きな流れを生み出すことにつながることを示してくれる絵本です。

 

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「ケーキの切れない非行少年たち」 宮口幸治 新潮社

「境界知能」ということ言葉を知っていますか?

これはIQ(知能指数)70~84のことをさす言葉です。現在「IQ70未満」を知的障害とされていますが、1950年代の一時期「85未満」とされていた時期もあったそうです。けれどもIQ85未満の人の人口比率が16%と多くなるため「IQ70未満を知的障害とする」ということになりました。

現代の社会生活を営むには100前後のIQがないとしんどいそうです。IQ70~84に相当する人たちは「知的障害」ではないので支援される対象にはありませんが、実際の社会生活では様々な困難に直面します。

本書では、児童精神科医でもある著者が非行少年たちと出会う中での気づきを「境界知能」に焦点を当て、そこから導き出された考察と支援の方法が記されています。

 

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「クラバート」 オトフリート・プロイスラー 作, 中村浩三 訳 偕成社

ドイツのスラブ系少数民族ヴェンド人に伝わる〈クラバート伝説〉を下敷きにした本書は、メアリー・ポピンズや指輪物語、ハリー・ポッター等の英語圏のファンタジーとはずいぶん雰囲気の違う物語です。

主人公のクラバートをはじめ登場人物一人ひとりを個性豊かに描き、復活祭やクリスマスなどを物語に巧みに取り入れた緩急ある構成で最後までぐいぐいと読ませます。

そして軍国主義への小気味よい一撃などもさりげなくはさみ、より密度のある物語となっています。 そして、親方の権力からクラバートを解放するべく「ソロの娘」と親方との命を賭した緊迫の駆け引きの巧いこと!

代表作のホッツェンプロッツの底抜けの楽しさとは全く違う、重厚で神秘的な骨太な世界をお楽しみください。

 

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「風をつむぐ少年」 ポール・フライシュマン著, 片岡しのぶ訳 あすなろ書房

誰しも生きていく中で、加害者になることもあれば、被害者になることもあるでしょう。 傷つけられた被害者や家族、友人たちの加害者に対する怒りや嫌悪は当然のことです。けれども加害者もまた、自分の引き起こした罪に傷つき、思慮の足りなかったこと、迂闊だったことに打ちのめされることも多いのです。

16歳の少年ブレントは転校早々開かれたパーティで恥をさらし、酔った勢いで自殺を企てます。その結果、ブレントは軽傷で済んだものの18歳の少女の命を奪ってしまいます。「人を殺してしまった」贖罪のためには何をすればよいのか?そもそも許されることなのか?大切な娘の命を奪われた母親は思いもかけない償いの方法をブレントに提案します。

罪を償うことのむずかしさ、赦されたいという願いの先にある希望が切なく伝わってくる物語です。

 

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「殺人者の涙」 アン=ロール・ボンドゥ, 伏見操 訳 小峰書店

アンヘル・アレグリアは殺人者。逃亡生活にうんざりした彼は隠れ家を得るため、チリの最南端、太平洋の冷たい海にのこぎりの刃のように食い込む地の果てに住む夫婦を殺します。

一人残された息子のパオロは生きのびるため、殺人者と一緒に暮らすことになるのですが…。

なんとも強烈な出だしからはじまる、緊張感あふれる二人の生活。何も与えられず、何かを与えたことのない殺人者と愛されたことはなく愛されるとはどんなことかを知らない少年。空疎な二人が共同生活を送る中から生まれる「なにか」。

生きる意味、赦すということ、贖罪とは…。決して心温まる物語ではないし打ちのめされる展開に読み続けるのがつらいこともあるにもかかわらず、未来への希望が感じられる読みごたえのある小説です。

 

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