近所の人が野菜の苗をくれるというので、その人の畑を訪れた。
その人の畑は、私の理想そのものだった。きゅうり、とうがらし、じゃがいも、ニンニク、ミニトマト、なす、山芋…。野菜たちが「この畑でよかった!」と言っているみたいに生き生きしていて、みずみずしい。それに比べて私の畑は…。苗を買って植えても、数日後には見るからに元気がなくなっていく。きっと明日は育っているはずと希望を持って見ても、期待通りになったためしがない。
「じゃがいもある?ちょっと待ってて」と、その人はしゃがみ込んでせっせと掘ってくれた。
じゃがいもの根元には籾殻が敷かれていた。こうしておくと草が生えにくいという。土は柔らかくふかふかで、スコップで一回、二回ほど掘っただけでじゃがいもの姿が見えてきた。
馴染み深い黄土色のじゃがいもと思いきや、出てきたのは赤紫色のじゃがいも。
「デストロイヤーっていう名前なのよ」
思わず聞き返した。
「デストロイヤー?!」
「昔、デストロイヤーっていう覆面したプロレスラーがいて、その顔に似てるからってその名前がついたんやって」
プロレスラーの「ザ・デストロイヤー」は、1960年代から活躍した覆面レスラー。得意技は足4の字固めで、力道山やジャイアント馬場とも戦ったとのこと。
赤紫のじゃがいもが、写真で見た骨太な「ザ・デストロイヤー」さんの顔にしか見えなくなってきた。
デストロイヤーは、フライドポテトやコロッケにしていただいた。ねっとり、むっちり、とにかく甘い。塩味やソースと合わさると、その甘さが際立って手が止まらなかった。
デストロイヤーを、もういいというまで食べてみたい。
目指せ理想の畑。そのために、まずは基本の土づくりから始めようと思う。