「スィート・メモリーズ」 ナタリー・キンシ―=ワーノック作, 金原瑞人訳 金の星社
だれもが忘れられない“美しい素敵な思い出”を持っていると思います。 わたしの思い出は、体が大きくて無口で少し怖い祖父と、どうしてだか家の周りのウバメガシを一緒に剪定することになってしまった時のこと。
切る枝選び方とどのように鋏を入れるのか。簡単に習った後はただひたすら、ちょきちょきちょき…。気づまりで緊張していたのが少しずつ平気になって、祖父と鋏の音で会話している心持になった時間が、今は大事な思い出です。
20年ほど前、この本を初めて読んだとき、鋏の音が通奏低音のようにちいさく聞こえてきました。楽しみにしていたことが流れてしまった残念さ。好きと嫌いの狭間を行ったり来たりする女の子。なにげないエピソードの積み重ねから生まれる幸福な読後感。
久しぶりに読み返したら「佳代ちゃんの切ったところがいちばんきれいじゃねぇ」と言ってくれた祖父の声がして、しばらく余韻に浸ったことでした。