「シェフィールドを発つ日」 バーリー・ドハーティー作,中川千尋訳 福武書店
行ったこともないし、どんな街なのかも知らないにも関わらず「シェフィールド」と聞くと何やら懐かしい気持ちになります。それはこの本と出会ってからのことです。
主人公のジェスは一年間フランス留学のため、明日、生まれ故郷のシェフィールドを旅立ちます。彼女の門出を祝うパーティも終わり家族だけになったとき、祖父母や父が、それぞれのとっておきの物語をジェスに語り始めます。旅立ちを前に、自分の存在の不確か さに戸惑う者を力づけてくれるのは、きっとこういう身近な人々の物語なのでしょう。
それはまた、読者である私も励ましてくれ、拙いながらも自分の物語をつむぐ勇気をくれるものでもありました。
さまざまな選択肢から一つを選ばなくてはならない決断のとき、そっと背中を押してくれるのは、シェフィールドのまちで出会った人であり彼らの語ってくれた物語なのでした。