「チェーザレ 破壊の創造者」 惣領冬実 講談社
このコロナ禍で遠出がままならなかった時期に、以前から気になっていたマンガを大人買いして一気読みという休日を過ごしていました。
「チェーザレ」は1500年代に活躍した政治家チェーザレ・ボルジアの伝記マンガ。
小耳に挟んだところによると、西欧史の中でチェーザレ・ボルジアはどちらかというと悪役イメージを担わされていることが多いのだそうですが、この作品はそのチェーザレ像に新たな光を当て、とても奥深く魅力的な主人公として命を吹き込んでいます。
同時にルネッサンス期のイタリアを中心としたヨーロッパの政治宗教的な状況や、学生や庶民の文化習俗にいたるまで、説明過多にならず、且つその息遣いも聞こえてくるような距離感で展開されます。
紙面での建築物の再現も息を呑むほどの精密さで、システィーナ礼拝堂の内観などもストーリー上登場しますが、ミケランジェロが天井画を描く前の時期の礼拝堂を、想像力も交えながら精密に再現しています。ちなみに2枚目の写真はピサに実在したボルジア邸の内観。見事です。
歴史マンガの非常に面白いところは、教科書で「習う」「覚える」ものであった歴史の一要素を、登場人物の様々な感情に共感しながらその出来事や事件を「体験」できるものとして現前してくれること。
例えば「カノッサの屈辱」というキリスト教史の大事件が、この漫画に出てきます。ローマ皇帝ハインリヒ4世がローマ教皇グレゴリウス7世から信徒としての破門を言い渡される大事件です。
教科書で読むとそういう説明になってしまうのですが、マンガの中ではそれが皇帝も教皇も1人の感情豊かな人間として、怒り、悔しさ、怖れなどを抱えながら先の見えない未来を掴もうともがく様が伝わってきます。
そうすると「カノッサの屈辱」は、生々しい体験として読者の心に刻まれる。そこがマンガの強さでもあると思います。