「栗いるかね?」
近所のおばあちゃんが栗をくれた。
エプロンのポケットから、これも、これも、と5個ほど手のひらにのせてくれた。
もうそれだけで、手のひらからこぼれそうなほど大きな栗だった。
栗はほんのりと温かかった。
「茹でてあるんですか?」と聞くと
「茹ででないのよ。お天道さまのぬくさよ。」
じん、とした。
帰り道、お天道さまは山の向こうへ沈み、もう夜を迎えつつあった。
ふと空を見上げると、銀色をしたお月さまが静かに光っている。
まるでひとつのおはなしの中にいるみたい。
栗、お天道さま、月、おばあちゃん。
この地で暮らす人たち、いつもそばにあるものたちが、毎日をちょっと特別な日にしてくれている。