「ガウディの遺言」 下村敦史 PHP研究所
ガウディ建築に心惹かれる私は、咄嗟にこの本を手にした。志半ばで事故により亡くなったガウディの遺言があれば世界中が大騒ぎになる。そんな心理を見事についた作品です。
主人公の女性は両親の関係に疑念を抱き、父親を敬遠し、サクラダ・ファミリアで石工として働く父親がのめり込む彫刻に嫌悪感を抱く。しかし、どうしようもなくガウディに引かれていく自分もいる。
そんな中、サクラダ・ファミリアの塔内部で殺人事件が起こる。
父親に犯人の嫌疑がかかり、様々な出来事が登場人物を翻弄し、誰もが怪しく見えてくる。思いがけない人物の犯罪、幼い時強盗により殺害された母親の事件も関係していたと判明する。ガウディの建築に対する意思も明確となる。
主人公は父親と和解し、新たな気持ちで人生を立て直す。ミステリでありながら、主人公の葛藤も見事に描写している。