私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

西野内小代

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「犬橇事始」 角幡唯介 集英社

偉大な探検家であり、数々の賞を獲得する作家でもある。「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」(複数のノンフィクション賞を受賞)を読んで以来のファン、今回も新聞で紹介されていたので、早速ネット注文した。

時々テレビ出演をされているが、探検家には見えない華奢なイケメンさん、そのギャップにも惹かれる。

過去の作品と同様、映像が目の前に展開しているかのごとく、臨場感溢れる文章で、地球最北の地グリーンランドへと読者を導く。13匹の犬との出会い、訓練、冒険へのスタート。それぞれの犬の個性を時には面白く、時には感情をむき出しに描く。読み終える頃には、名前を呼べば紙面から飛び出し、傍らに寄って来るかのような錯覚に陥る。

コロナウィルスのパンデミック真只中での冒険となった為に、計画の変更を余儀なくされる。犬たちの著しい体調変化・激しいボス争い等、様々な出来事を乗り越えて旅を続けていく様子が、軽やかにコミカルに描かれている。

冒険とは何かという命題にも哲学的に深く切り込み、犬橇の顛末の面白さ、内なる自分をきめ細かに分析する姿勢、ノンフィクションであるだけに説得力がある。

 

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私の一冊

山門由佳

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「一緒に生きる 親子の風景」 東直子, 塩川いづみ 福音館書店

育児本のタイトルはやけにインパクトがあって、“〜歳までに◯◯できる子に”など焦りを感じさせながら悩み多き母の弱みにつけ込んだ題名が多いような気がしています。でも、大抵そういった本を読んだあとは余計に空回りする自分に気づいたのはいつからでしょうか。

【育児】という答えがありそうでないジャンル。 気合を入れて、絶対にうまくいかせないといけないような気にさせる強迫観念のマジカルワールド。

子育てを終えた著者の温かい目線、思い出のエピソード、育児に対しての考えを読んで心に明かりがぽっと灯されました。育児は毎日がワイルド&ハード。 弱りやすい母親に本当に必要なのは 『心配しすぎなくてもいいんだよ』 というやさしいメッセージ。この本にはそんなやさしさが詰まっています。たくさんのお母さんに読んでもらいたいです。

もうじき私も幼児期の子育てを終えます。

−うれしくて、さみしい。よろこばしくて、かなしい。

−長い人生からすると、とても短い期間なのに、育児の最中は、永遠に続くしんどい時間のように感じることもあった。必ず終わってしまう時間なんだよ、もっと楽しみなさいよ、とあのときの若い自分に耳打ちしたい。

−子どものときの時間は、最もおもしろくて、楽しくて、貴重で、大変で、不安で、辛くもあった いろいろあって、いろいろ終わって、そして、二度と戻らない時間なのである。

どれもこれも胸を打つ文章に、たくさん励まされた本でした。 出逢えてよかった一冊です。

 

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私の一冊

山門由佳

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「97歳 料理家 タミ先生の台所 おさらい帖」 桧山タミ 文藝春秋

タミさん。わが娘と同じ名前ってだけですでに親近感を覚えます。 福岡で生まれ、現在大分の山奥で暮らされています。 60年という長きにわたって、日本をはじめ世界の家庭料理をたくさんの方々に教えていらっしゃいました。

こちらの著書にはタミ先生愛用の道具、鍋や器にエプロンまで、台所にまつわる品々が紹介されています。

まずはタミ先生の代名詞ともいえる銅鍋の紹介からはじまり、おひつ(冬場は藁いずみという籠におさめて保温する)、梅干しやお水や塩をいれるそれぞれの壺、サラシや竹皮を日常使いする暮らしは 《料理をつくること。 実はそれは地球環境と台所は深く繋がっている》というまさかの事実にもはっとさせられました。

スーパーに行けば、簡単に早く出来上がる便利な商品やプラスチック製の安価な商品が溢れています。自然素材でつくられた昔ながらの道具をひとつでも取り入れたら、きっとその使い心地になにか気づきがあるかもしれません。

わたしはこの本を読んで、火鉢をはじめてみました。 −『わたしは宝石よりよい鍋が好き。鍋なら家族みんなが温まるから』

 

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私の一冊

山門由佳

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「高知 アヴァンギャルド」 東京ニュース通信社

書店に入ってすぐの一番目につく棚にバーン!とずらずら並べられたこちらの雑誌?いやガイドブックに手をとらないでいるほうが難しいほどに冴えたデザインに目を奪われました。そしてページをめくると、なみなみと溢れる高知のディープな面白さ… そう!わたしはこのラテンで濃厚な感じに惹かれて引っ越したんだったってことを思い出しました。

高知県はすばらしい大自然と共に生きる人々の温かさ、細かいことは気にしない器の大きな県民性に魅力を感じています。そんな高知県人の方々がつくりあげた場所やお店に商品、カルチャーがたくさん紹介されています。

なかには訪れたことのある場所や店、食べたことのある品、話したことのある人が載っていました。まちがいなくその方々、品々、場所場所はどれもナイスで素晴らしいので、きっとこのガイドブックの情報に間違いはございません…。

さっそくこのガイドブックを手に南国市にある『白木谷国際現代美術館』を訪ねました。載っていた写真の作品は想像をはるかに上回るスケールで、そこからたちこめる熱量に圧倒されました。 館外にある作品群は、山や川の自然と共生&共鳴しながらもびんびん伝わってくる生命力の塊のような作品でした。

鑑賞し終わったあと、作者でいらっしゃる武内光仁さん御本人が作品とは裏腹に穏やかにたたずみ、そのそばでやさしく微笑まれている奥様はガイドブックの写真どおりでありました。そして淹れてくださった珈琲をいただくひとときに、まさに《高知》をひとしお感じました。高知県は自然と、情熱と、やさしさでできています。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「私の源氏物語ノート」 荻原規子 理論社

1988年に壮大な古代ファンタジー「空色勾玉」でデビューして以来、幅ひろい年代層から絶大な支持を得ている作家の荻原規子さん。物語のつむぎ手としてだけではなく、古典文学にも造詣が深い荻原さんが、源氏物語を大胆に再構築した「荻原規子の源氏物語」(全7巻)を上梓ししたのは、今から10年前のことでした。

源氏物語五十四帖を現代語訳し、読みやすく分量を減らす工夫として途中の帖を抜いて編集し直し、源氏と紫の上・藤壺の宮の主軸にした上だけで進む「紫のむすび」(全3巻)をはじめて読んだ時の驚きは今でもまざまざと覚えています。

その後、玉蔓に焦点をあてた「つる花の結び」(上下)、薫の屈折した性格がドラマチックなメロドラマを引き起こしたのではないか、と思わせる「宇治の結び」(上下)が出版されました。

本書では、原文から五十四帖の全訳を成し遂げたからこその感慨、細部に及ぶ記憶の深まり、帖から帖へとつながる連想などを奔放に綴られています。この荻原流鑑賞の手引きを手元に置き、もう一度「紫の結び」から再読してみようと思っています。

 

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私の一冊

山門由佳

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「セツローさんの随筆」 小野節郎 信陽堂

 高知県香美市のお山に暮らす布作家・早川ユミさんのお舅さんにあたる小野節郎さんの著書です。

早川ユミさんの文章を読んでいるとたびたび出てくる『セツローさん』のお名前。いったいどんな方なのかしらと前々から気になっておりましたら、なんとありました。土佐町図書館に『セツローさん』の著書が。

岡山に生まれ愛媛で長くレントゲン技師をなさっていたそう。子どもの頃の懐かしい思い出話や、家族や親戚のよもやま話をのんびりとした語り口でありありと情景が浮かびます。読みすすめながら私もおもわず『セツローさん』の隣にいて一緒に時を過ごしてるような気分になっていました。

載っている挿画や木彫り、手びねりでつくられた土人形はどれも『セツローさん』がつくられたもので愛らしくそばに置いておきたいなぁとおもう作品ばかりでした。お会いしたこともないのに、親近感を感じる不思議な『セツローさん』。お会いしてみたかったです。

−幼かった日、私は幾度か垣間見たことがある。 寒い夕暮れ、漬け終わった糠の上を、母がひたひたと、手のひらで、優しく、愛おしむように叩きながら、「おいしく漬かっておくれ」「いいダイコだから、きっと、おいしく漬かっておくれね」 と、漬物に話しかける姿を。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「元気?世界の子どもたちへ」 長倉洋海 朝日新聞出版

本年の映画初めに「鉛筆を銃 長倉洋海の眩(め)」(河邑厚徳/監督)を鑑賞しました。写真家を志したきっかけや、写真家として何を目指すのか思い悩んだ日々、そんな中で出会った人たちへの想いや現在に至るまでの交流などが丁寧に描かれており、その真摯な生き方を知って、ますます長倉ファンになりました。

1980年より世界の紛争地や辺境の地を取材したくさんの作品を発表している長倉さんですが、なかでも『いのる』『はたらく』『まなぶ』(いずれもアリス館)など、子どもを主人公とした写真を撮らせたら長倉さんにかなう人はいないのではないか?と思わせるくらい、本物のこどもの表情を捉えていらっしゃいます。

本書は、2021年4月から2年間にわたり「朝日小学生新聞」に連載されたものを「自然の中で」「あそぶ・まなぶ」「夢に向かって」「いっしょに」の4つに再編集されたものですが、写真はもちろんのこと、子どもたちとの出会いや思い出を綴られた長倉さんの文章も素晴らしく、何度でも読み返したくなる写真集でした。

 

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私の一冊

西野内小代

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なぜヒトだけが老いるのか」 小林武彦 講談社

2024年になり、早々に一つ年齢を重ねた。体力的な事、記憶力もしかり、色々な衰えを認識するお年頃である。「老い」がちらつき、少し弱気になってくる。

この本を読む限り、老化する事によって、人類は進化してきたらしいので、受け入れるしかない。そこには「シニア」としての役割もあるので、経験し受け継いできた知恵・知識を後世の人々に伝えていく義務がある。

「ゲノム」的見地からすると、55歳位が肉体の限界らしいが、現在の人類はそこを30年は優に超えている。寿命は総心拍数によりある程度決定されるという仮説もあるので、穏やかに生きたい。

また85歳を過ぎた辺りから、心がとても平安になるので、決して悲観する必要はないらしい。

総心拍数を使い切って、健康に寿命を全うするには、日々コツコツと動き続ける事が秘訣らしい。今後は庭の手入れにも積極的に取り組もうと、気持ちを新たにした2024年の始まりです。

 

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私の一冊

西野内小代

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ガウディの遺言」 下村敦史 PHP研究所

ガウディ建築に心惹かれる私は、咄嗟にこの本を手にした。志半ばで事故により亡くなったガウディの遺言があれば世界中が大騒ぎになる。そんな心理を見事についた作品です。

主人公の女性は両親の関係に疑念を抱き、父親を敬遠し、サクラダ・ファミリアで石工として働く父親がのめり込む彫刻に嫌悪感を抱く。しかし、どうしようもなくガウディに引かれていく自分もいる。

そんな中、サクラダ・ファミリアの塔内部で殺人事件が起こる。

父親に犯人の嫌疑がかかり、様々な出来事が登場人物を翻弄し、誰もが怪しく見えてくる。思いがけない人物の犯罪、幼い時強盗により殺害された母親の事件も関係していたと判明する。ガウディの建築に対する意思も明確となる。

主人公は父親と和解し、新たな気持ちで人生を立て直す。ミステリでありながら、主人公の葛藤も見事に描写している。

 

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私の一冊

西野内小代

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「月の立つ林で」 青山美智子 ポプラ社

「月」がキーワードとなって作品を構成している。タケトリ・オキナという人の『ツキない話』という番組のリスナーを巡ってストーリーは展開する。

看護師・宅配便の仕事をしながら芸人を目指す青年・二輪車の整備工場の経営者・母と二人暮らしの女子高校生、そしてハンドメイドアクセサリーをネット販売している主婦が各章での話の核となっている。

タケトリ・オキナと登場人物の中の一人が再会を果たしそうな余韻を秘めてラストとなる。

最後の最後に泣かされた。「最高傑作」という帯の紹介は決して誇張ではない。

 

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