私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

西野内小代

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ガウディの遺言」 下村敦史 PHP研究所

ガウディ建築に心惹かれる私は、咄嗟にこの本を手にした。志半ばで事故により亡くなったガウディの遺言があれば世界中が大騒ぎになる。そんな心理を見事についた作品です。

主人公の女性は両親の関係に疑念を抱き、父親を敬遠し、サクラダ・ファミリアで石工として働く父親がのめり込む彫刻に嫌悪感を抱く。しかし、どうしようもなくガウディに引かれていく自分もいる。

そんな中、サクラダ・ファミリアの塔内部で殺人事件が起こる。

父親に犯人の嫌疑がかかり、様々な出来事が登場人物を翻弄し、誰もが怪しく見えてくる。思いがけない人物の犯罪、幼い時強盗により殺害された母親の事件も関係していたと判明する。ガウディの建築に対する意思も明確となる。

主人公は父親と和解し、新たな気持ちで人生を立て直す。ミステリでありながら、主人公の葛藤も見事に描写している。

 

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私の一冊

西野内小代

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「月の立つ林で」 青山美智子 ポプラ社

「月」がキーワードとなって作品を構成している。タケトリ・オキナという人の『ツキない話』という番組のリスナーを巡ってストーリーは展開する。

看護師・宅配便の仕事をしながら芸人を目指す青年・二輪車の整備工場の経営者・母と二人暮らしの女子高校生、そしてハンドメイドアクセサリーをネット販売している主婦が各章での話の核となっている。

タケトリ・オキナと登場人物の中の一人が再会を果たしそうな余韻を秘めてラストとなる。

最後の最後に泣かされた。「最高傑作」という帯の紹介は決して誇張ではない。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「カメラを止めて書きます」 ヤン ヨンヒ CUON

過日、ずっと観たいと思いながらその機会を逸していたヤン ヨンヒ監督のドキュメンタリー映画「スープとイデオロギー」を観ることができました。

済州島出身の両親を持つ、日本生まれ日本育ちのヨンヒさん。3人の兄を北朝鮮に「帰国」させたのをずっと恨みに思い、でも両親にその思いをぶつけることはできず、「帰国」させたことを本当はどう思っているのか両親に尋ねることは憚られ…。時にユーモアも交えながら、国家に翻弄された家族の歴史を描きだした素晴らしい映画でした。

この「スープとイデオロギ―」の前に撮られた「ディア・ピョンヤン」、「愛しきソナ」と合わせ、家族ドキュメンタリー三部作のなかでは撮ることのできなかった様々を「カメラを止めて書いた」のがこのエッセイです。

家族の映画を撮り発表するたびに、家族と会うことができなくなったヨンヒ監督。それでも「家族は消えない、終わらない、面倒でも会えなくても死んでも家族であり続ける」実感を持ち続けることができたのはどうしてか。何が彼女を支え、強くし、今のヨンヒ監督を作り上げてきたのかが、丁寧に綴られています。

機会があれば映画もぜひ観てほしいなぁ…。

 

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私の一冊

西野内小代

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ミステリと言う勿れ」 豊田美加 著, 田村由美 原作, 相沢友子 脚本 小学館

映画化された脚本をもとに、著者が書き下ろしたノベライズ作品です。

テレビで放送された時に、主人公の大学生がブツブツ言っているうちに謎が解明されてしまうという、風変わりなミステリーがとても印象深く記憶に残っていた。

今回も相変わらずブツブツと違和感を口にしているうちに真相解明ができてしまう。観察眼の鋭さと知識の豊富さが謎解きのスパイスとなっている。

「犬神家の一族」を彷彿させる作品である。

 

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私の一冊

古川佳代子

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『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』 小野寺拓也, 田野大輔著 岩波書店

戦後教育を受け、平和憲法の素晴らしさを学んだ身にはとても残念なことですが、「ナチスは良いこともした」という議論が時々繰り返されています。なにをバカなことを、そんなこと誰も信じないでしょう、と思ってはいても「良いことをした」と主張する人は少なくなく、これは一体どういうことなんだろうと思っていた時にめぐり合ったのが本書でした。

ナチズムをプラス評価する際に例として挙げられる「アウトバーンの建設」、「フォルクスワーゲンの開発」、「手厚い家族支援策」、「歓喜力行団の旅行事業」等など。これら一見先進的に見える政策の不正や搾取・略奪と結びついていたことを、公に認められている資料から検証し、多角的な視点による考察を述べています。

2022年の学習指導要領施行により高等学校では「歴史総合」がはじまりました。指導要領では「近現代の歴史の変化に関わる諸事象について、世界とその中の日本を広く相互的な視野から捉え、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を理解するとともに、諸資料から歴史に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする」ための科目であると定められています。

今を生きる若者たちに手渡したい1冊です。

 

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私の一冊

西野内小代

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あなたが誰かを殺した」 東野圭吾 講談社

有名な別荘地で起きた連続殺人事件、犯人は直後に自首するが、黙秘を続けるために謎は解明できない。被害者の家族が集まり、真相を知るための「検証会」が開かれる。

集まった人々はそれぞれ「あなたが誰かを殺した」という手紙を受け取っている。集まった中に被害者家族以外の人が2人居る。1人は敏腕刑事、もう1人は自身を偽った人物として参加している。

刑事の導きにより真相が徐々に明らかとなり、犯人と共犯者の2人が確定され、これで事件は解決と読者は油断する。果たして刑事の推理はまだ続く、「あなたが誰かを殺した」という手紙の伏線が見事に回収される。3人目の容疑者が居たのである。

アガサ・クリスティーの作品を彷彿させるような構成に感じられたが、やはり東野圭吾ワールドが際立つ作品だった。

 

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私の一冊

矢野ゆかり

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「ろいろい とさちょう」 とさちょうものがたり作, 下田昌克 絵  合同会社風

お久しぶりの登場、矢野です!
本を読む気になれず、こんなに時間が経ってしまいました。こんな私が読書を趣味と言っていいのか、困ったものです。そんな中、編集部の鳥山さんがある絵本のページを送ってくれました。

今回はその絵本を紹介したいと思います。私が書いていいものか悩みましたが、読んでみて数々の思い出と懐かしさが込み上げてきたので書かせていただくことにしました。「ろいろい とさちょう」土佐町のオリジナル絵本です。作者はとさちょうものがたり、絵は下田昌克さんです。この絵本は珍しく蛇腹になっていて、表と裏で楽しむことが出来ます。実は私と父と母も登場しています。そっくりすぎて思わず笑ってしまいました。(モデルなった時の私は痩せていた時だったようで、今とはサイズがちがいます 笑)

あまり詳しく書くと、これから読む人がつまらないと思いますので、どんなところで思い出があるのか、ちょこちょこ書かせてもらいます。

まず、川が出てくる場面。土佐町の子供は小学生から高校生まで、夏は川にお世話になります。男女年齢関係なく大人数で行けば大丈夫という謎の安心感で、繰り出していました。私は他のページにも出てくる岡部商店で“ちゃん”と呼ばれるモリを買って、魚を突いていました。同級生の男の子と一緒にどこまで深く潜れるか競争したり、岩から飛び込んだり、焚き火で魚を焼いたりしました。
1つここで懺悔をするとすれば、肝試しで岩から飛び込みをしていた時に、調子に乗った私は妹の背中を押したらしいです。皆さんは決して真似しないでください。陽菜、ほんまごめんなさい。
川の底に潜って体を空に向けると、水面がゆらゆら青い空がおぼろげに見えます。表面と違って川底の水は冷たく、そばをゴリ(底に済むハゼのような魚の総称)が泳ぎ、川の水がしゅんできて、川と一体になった気がするのでした。
絵本には書かれていませんが、川遊びのプロは水着の上に白いTシャツを着ます。泳いでいるのがよく見えるということと、川の虫達(アブやテジロ)が黒色を好むので、自然と白いTシャツを着ていました。今はどうなんでしょうか…。

次に三島と東境が出てくる場面。いつも5月の終わりから6月の初め頃に、蛍が飛び始めます。この時期はみんな田んぼの畦を刈ったりするのですが、ここの用水路は刈りません。蛍の寝床になるからです。私が物心着く頃からそうでした。そして夜は街灯を消して、蛍が飛べるようにします。このことを当たり前だと思ってくださる人々に、私は誇らしい思いを抱きます。
小学生の頃、蛍を見に行った時、先代の土佐酒造の社長さんに会いました。その時うっかり「おじちゃんは頭がぴかぴかやき、蛍も間違うね」と言ってしまい、父にしばかれた思い出があります。社長さんは「ほんまじゃ、まっことそうじゃねぇ」と笑ってくださったことを覚えています。

南川地区が描かれたページ。優良運転者のマークがついた軽トラに、イノシシかどんと載っています。友人は子供の頃、軽トラの荷台で解体されていたイノシシを見て、イノシシを食べられなくなったそうです。独特の匂いがするとも言っていました。林道にイノシシの頭が落ちていたこともあったそうです。
イノシシは毎年必ず食べていますが、猟師さんや捌いた人で味が全く違うので驚きます。私をかわいがってくれていた、ノブさんという今はもう亡くなったおじいさんがいますが、私の身長ぐらいある大きなイノシシを撃ったことがあると教えてくれました。イノシシと交通事故に会うと、車が廃車になることもあるそうです。もののけ姫に出てくる大イノシシたちも、あながち間違いじゃないなぁと恐ろしく思ったことでした。

森地区の野中祭。父が福引係でいつも抽選会の司会をしています。はっきり言って、つまらないギャグを言うのは本当にやめて欲しいです。お願いします。

次にさめうらダム。カヌーに乗ったラヨシュ・ジョコシュさんが描かれています。私の弟が高校生の時、ラヨシュさんにカヌーを習っていたのですが、「裕太、ノーマッスル」と言われていました。だいぶ傷ついたようで、今でもAmazonプライムデーにプロテイン買い溜めして飲んだり、仕事終わりにジムに通っています。でも、ひょろひょろです。

相川には祖母のお姉さんが住んでいました。赤牛を飼っていて、お邪魔する度に見せてもらっていました。特に目が印象的で、Cカールのマツエクをどっさりつけたようなまつ毛、うるうるの黒目がちな大きな目、性格もおっとりしていて本当に可愛いです。

この絵本を読んでいると、土佐町民は誰もが自分の思い出が蘇るのではないでしょうか。描かれている人を見て、「どこどこの、あの人じゃないかな?」と思ったり、「もしかして、これ私?」なんて、思ったり。そして、関係ない人が読んでも、自分のふるさとのことを思い出すことでしょう。
この絵本は本当にたくさんの人の協力で完成した絵本です。本を作ること自体、1人ではできないことですが、下田さんや編集部の地道な取材があってこそ、リアルな土佐町が描かれているのだと思います。このコラムを読んでくださっている方も、ぜひ、「ろいろい とさちょう」読んでみてください。自分だけの土佐町が見えてくるはずです。

右手にのしかかってくる飼い猫の頭が重いので、そろそろ筆を置きます。
読んでくださってありがとうございました。
最後に、世界がもっと平和に、世界がもっと優しくなりますように。祈って。
終わり。

 

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私の一冊

西野内小代

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「教育は遺伝に勝てるか?」 安藤寿康 朝日新聞出版

著者は行動遺伝学を専門とされている方です。果てしなく先祖へと遡るDNAが存在するなかで、どの因子がどの組み合わせで作用してくるか…。これは偶然の産物のような結果であって、丸ごと親のDNAが遺伝する訳ではない。

一卵性双生児と二卵性双生児の研究結果も載せられている。一卵性双生児の場合、無意識下での一致が数多くみられ、遺伝の一致が推論できる。二卵性双生児になると確率はやや落ちてくるそうだ。

環境と教育によって、遺伝された部分が伸びゆく可能性は強い、相互に作用すると考えられる。感じたり、考えたりするその仕方に、その子自身の遺伝的素質が反映されている。

両親から譲り受けた遺伝子を、新たに組み替えて出来上がった、その子独自の遺伝的素質により、学習・経験を通して能力を獲得していく。歳を重ねるに従い、遺伝の影響は強くなってくるらしい、共有環境の影響が薄れていくという行動遺伝学の結果と一致してくるそうだ。

歳を重ねた現在の私は、果たしてどのような遺伝の影響を受けているのだろうか…?と振り返ってみた。

 

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私の一冊

西野内小代

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「黙示」 今野敏 双葉社

帯に書かれている「ソロモンの指輪」超古代文明の謎、この言葉に興味を引かれた。

高級住宅街で発生した奇妙な窃盗事件が題材の警察小説です。

謎の暗殺教団が、現代も組織として残っているかのような設定もあり、古代ミステリーの様相を呈してくる。

古代文明に精通した探偵と助手も登場、助手の名前が「明智大五郎」・・・ちょっと笑える。

窃盗にあったIT長者は命をも狙われると不安におののいている。

ほとんどが会話形式で描かれていて、読み手も参加しているような錯覚に陥る。

 

 

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私の一冊

古川佳代子

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「ガザ 戦争しか知らないこどもたち」 清田明宏 ポプラ社

シナイ半島の北東部、東地中海に面した360平方キロメートルほどの小さな土地。壁に周囲を取り囲まれ、まるで収容所のような都市“ガザ”。この地域では「イスラエル」と「パレスチナ」二つの国が何十年もの間、争い続けています。

21世紀以降に限ってみても、2006年、2008年~2009年、2012年、2014年、2018年と戦争が起きており、2023年10月にはこれまでの5度の戦争と比べても一番悲惨だ、といわれるほどの戦いが始まってしまいました。

この写真絵本は今から8年前、2015年に出版され、戦争を生きのびる日々しか知らない子どもたちの過酷な生活を伝えてくれました。そして、ガザを再建していく希望の未来、これ以上「戦争しか知らないこどもたち」を増やしてはならないという決意に満ちていました。それはこの本を手に取ったすべての人に願いでもあったと思います。けれど現実は厳しく、再び両国間で戦争は起こり、多くの子どもたちや市民が命を落としています。

一日も早く武力ではなく知力で平和な日常を取り戻し、戦争しか知らない子どもたちが、戦争を知らない子どもたちの親となる日が来ることを願ってやみません。

 

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