2018年9月

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「水木しげるの娘に語るお父さんの戦記」 水木しげる 河出文庫

水木しげるさんが書いた自分自身の戦争の記録です。

激戦地であったラバウル。左腕を失いマラリアにかかり食べ物もない。そんなときに現地の人が夜にこっそりパパイヤやパイナップルなど食料を運んできてくれたことで生き延びた水木さんは、悲惨な毎日のなかでも現地の人との出会いや出来事をどこかユーモアも持ち合わせて受けとめ、楽しみにもしていました。よくぞ生き延びた、と思います。

 

「ラバウル」。

今まで戦争を体験した土佐町の方たちに当時のお話聞かせていただいたことがありますが、その地名は何度も聞いたことがあります。

『地図の記憶

『ラバウル』

水木さんや土佐町の方たちが当時見つめていたそれぞれの風景に、もしかしたらどこか重なるところがあるかもしれません。

水木さんはラバウルで終戦を迎え、必ずまた戻るから、という約束を戦後30年たってから果たし、そのあと何度もラバウルを訪れたそうです。水木さんのお人柄はこのような姿にもあらわれているように思います。

鳥山百合子

 

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大豊町社会福祉協議会のポロシャツを作りました!

どんぐりの職員・筒井さんが社協の方にシルクスクリーンの取り組みの話をしたことがきっかけで、「うちのポロシャツを作ってもらいたい」ということに。

大豊町社協の職員の皆さんは、仕事着としてのポロシャツを何枚か持っています。今回も今までと同じように「“大豊町社会福祉協議会”と胸に文字を入れたものを作ってほしい」というご希望でしたが、もしよかったらこんな風なかたちにもできますよ、と背中の部分をデザインしたものを提案させていただきました。

職員さんはどう感じるのかな…。お返事をいただくまでドキドキしました。

デザインはこちら。大豊町のシンボル、大杉をイメージしています。「SFK」は「Shakai Fukushi Kyogikai」の略称です。

左腕の部分には全国共通の社会福祉協議会のシンボルマークを。

 

 

「このデザインでいきます!」とお返事をいただいた時はとてもうれしかったです。

 

 

ご注文いただいたのは全部で132枚。一つの場所からこの数の注文をいただいたのは私たちにとっても初めての経験でした。
そして、これは土佐町の外からの初めての注文でもありました。

 

先日、注文いただいた分の半分をお届けに行きました。

「すごくいい!」と喜んでくださいました。左は大豊町社協事務局長の三谷よし恵さん。右はどんぐりの筒井さん。

 

「いいですね〜。着るのが楽しみ!」と言いながら、サイズと枚数を確認。

 

 

どんぐりのシルクスクリーンチームのみんなが一枚ずつ丁寧にプリントしたポロシャツ。
このポロシャツを着る時に、ちょっとうれしくなったり、ちょっと楽しくなったり…。そんな風に感じてもらえたらうれしいなと思います。

 

 

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私の一冊

石川拓也

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「おいしいデ」 梅原真   羽鳥書店

この欄でなんども紹介している高知のデザイナー梅原真さん。
近年の仕事を詳述した新刊が羽鳥書店から出版されました。タイトルは「おいしいデ」。 

梅原さんの考え方、仕事ぶりは、おそらくどんな業種の人にとっても勉強になり参考になるんじゃないでしょうか。デザイナーとして単に美しいパッケージを作るということよりも、(多くは高知で)土地と人の中を駆け入って、根本的な視点からアプローチして行く。
 
現場から離れない。地面から離れない。机の上からモノを言わない。その梅原さんがひとつひとつの仕事について丁寧に解説したのがこの一冊です。

石川拓也

書評サイトの記事にて梅原さんご本人を撮影する機会をいただきました。こちらの記事もおすすめです。

 

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笹のいえ

主夫ニ美学アリ

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日々の洗濯と食器洗いは、なんとなく僕がすることになってる。

どちらも嫌いではないし、場が片付くのは気持ちがいい。

洗濯は特に干すのが好きだ。

好きなのを通り越して、こだわりというか、自分で決めたルールがある。

まず、カゴに入った洗濯済みの服などを素早くチェックし、頭の中でカテゴリー分けする。

そのカテゴリーに、干し場(物干し竿やハンガー、ピンチハンガー*など)の広さや数量が対応しているかを計算する。前日に洗濯したものがまだ乾いていないようであれば、その分を差し引いておかなければならない。

そして「布おむつ」とか「お兄ちゃんのズボン」とか、同カテゴリーを隣り合わせで干していく。取り込んだ時に畳やすく、タンスに片付けやすいからだ。

ピンチハンガーを利用するときは、干し物の重さのバランスが取れ、最終的に左右釣り合っているようにする(これが気持ちいい)。また、生地の厚いものは陽の当たる外側に干すなどの気遣いが必要だ。

作業スピードから乾きやすさ、収納までを考えて、自分ルールが成り立っている。「乾けばいーじゃん」と言われればまあその通りなのだが、「主夫にも美学あり」なのである。

他にも「子ども服には小さめのハンガーを使用」「複数のハンガーを干すときは間隔を等しく」「部屋干しで乾いていても、一度は天日に当てる」など語りはじめるとキリがないのでこの辺にしておきます。

ちなみに、うちの奥さんは干し方を全く気にしない。僕としては指導したいところではあるが、家庭が円満に過ごせるよう、黙ってる。それでも、気になる干し方を見つけると、コッソリ直してるのは秘密です。

 

*洗濯バサミのたくさんついたアレです。

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私の一冊

石川拓也

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“EPA Graphic Standards System”           Standards Manual

EPAというのはアメリカの環境保護局(Environmental Protection Agency)のこと。

その環境保護局が内部向けに作成していたグラフィック・マニュアルを復刊したのがこの本。

グラフィック・マニュアルというのは例えば‥

・ロゴの使い方
・書類の作成
・使って良い色と使ってはいけない色

などなど、EPAとしてのビジュアル全般をこと細かにルール化したものです。こうやって大元のルールブックを作り、すべての作成物(印刷物に限らず、ありとあらゆるもの)をそれに則ってデザインしていく。

そうすることで対外的なイメージを統一的な強いものにしていく。これはEPAに限らず、イメージ戦略に敏感な企業もやっていることですね。

ビジュアル的にも面白いものなのですが、その根本の考え方が面白い一冊です。

石川拓也

 

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土佐町ストーリーズ

風が見える

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ムクムクした入道雲、セミの鳴き声。

山の神さまが洗濯したての緑のじゅうたんを大地の上に思いっきり広げたみたいな夏の田んぼ。

その田んぼに稲穂がつき花が咲き始め、表面がうっすらと黄金色になってきた。

じゅうたんの上を太陽の光を浴びて羽をキラキラさせながら、とんぼたちが飛んでいる。

 

この季節、土佐町には気持ちの良い風が吹く。

頰に感じるのはからりとした、顔を洗ったあとのような気持ち良さ。

 

この風は一体どこから生まれているのかなといつも思う。

山からか、谷からか、川からか。

 

並んだじゅうたんの上を風が通り抜ける。

まるで誰かと追いかけっこをしているみたいに稲穂を揺らしながら、重なるように、もつれるように、ぶつかりあいながら、あっちからもこっちからも走り抜けていく。

稲の波。きみどり色の海。

 

「風が見える!」

棚田が広がる風景を目の前にそう言った人がいた。

風は自分の足跡を残しては消え、残しては消え、また現れる。

 

この地の先人たちもこの風を感じていただろうか。

田んぼの畦に座り風の足跡を見つめながら、そろそろ収穫の準備を始めようか、と思いを巡らせていたのかもしれない。

 

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土佐町ポストカードプロジェクト

2018 Aug.

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中尾 | 田岡澄人 明咲希 高橋葵

 

8月の土佐町、稲は青々と実り、金色に輝く一歩手前まできています。
農家のみなさんが日々汗をかいて育てた稲の一本一本が、土佐町の風景を作っています。
この風景からできあがるお米が美味しくないわけがない。できたてのお米、今年も楽しみにしています。田んぼの中を元気よく遊びまわってくれたのは田岡澄人くん、明咲希ちゃん兄妹と高橋葵ちゃん。
走り回って遊んでいる中のふとした一瞬です。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「ナショナルストーリープロジェクト」 ポール・オースター編 柴田元幸訳 新潮文庫

「とさちょうものがたり」の連載のひとつ「土佐町ストーリーズ」が生まれたきっかけとなった本です。

アメリカの作家ポール・オースターがラジオ番組で募集した、アメリカで暮らす「普通の」人々の実話が綴られています。
私は特に「お祖母ちゃんの食器セット」「青空」というお話が好きです。

毎日の中にある「普通の」出来事が、実はあの時のあのこととつながっていたんだ、とはっとする時があります。
そのことに気づくのは、いつもあとからなのですが。

今日刻むだろう足跡も、これからの歩いていく道のりも、きっといつかこの先で、どこかで何かとつながっているのでしょう。

鳥山百合子

 

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山の手しごと

すいかとり(後編)

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(前編

 

ふと視線をあげると鶏小屋の屋根にからまる蔓に鈴なりのアケビがなっていた。まだ緑色で食べごろではないけど「秋には紫になるよ」とおじいちゃんは教えてくれた。

もう山の向こうに沈んだ太陽が山の稜線にオレンジ色の線を引いているのが見えた。そばにはしそ、生姜、リュウキュウ。これから実をつける秋豆が育っている。

おじいちゃんとおばあちゃんの足跡を感じる畑。ゆたかだなあと思う。

 

スイカ畑にはいくつもプラスチックのケースやカゴがひっくり返っている。トランプの神経衰弱みたいにこれはどうかな?と箱を開けていくと、中にスイカが入っている。
まだ小さいのもあるし、もう傷んでいるのもあるし、ちょうどいい大きさのもある。

「こうやっておかんとたぬきが食べにくるけ。」とおじいちゃん。
さっき食べたスイカもこのケースに守られながら、はち切れんばかりに育ったのだとわかった。

 

息子が畑に飛び込むように入って、ケースを返していく。

「おじいちゃん、これ、どうやろ?」

「ん〜。それはもうちょっとおいちょこうか。」

 

 

もう空の色が夕暮れへと変わり始めていた。杖をつきながら見守ってくれてるおじいちゃんはきっとこの日を楽しみにしていくれていたのだと思う。このおじいちゃんのまなざしをちゃんと覚えておきたいと思いながら私はそばにいた。

収穫した2つのスイカを息子と私で抱えて畑を降りる。
ずっしりと重い。きっとこのスイカも美味しいに決まってる。

 

スイカを抱えてまたおじいちゃんの家に戻った。

おじいちゃんは「池に入れちょいたらえい。これは清水やけ、よーく冷えるんよ」と言った。

 

池のそばまでスイカを抱えて行ってどうやって入れたらいいのかと迷ってると、「そのまま!ドボーン!」とおじいちゃんは笑った。

 ドボーーン!

スイカは音を立てて池の底の方まで沈んでから、くるくるくると回りながら浮かんできた。

 

 

2つとも池へ入れるとスイカのそばに鯉が寄ってくる。時々つついたり体を寄せたりしながらスイカを揺らす。
この鯉にも食べたスイカの皮をあげると、残っている赤いところを喜んで食べる。我先にひとつの皮に頭を寄せ押し合いへし合いしながら、口をパクパクさせてスイカに夢中になっている。

 

 

おじいちゃんは「こうやって冷やしといたらえい。また明日取りにおいでや」と言った。
お言葉に甘えてそうさせてもらうことにした。

そして最初に切ったスイカの半分をお土産にと持たせてくれた。

 

 

それから毎日のようにスイカを食べた。そのたびにこの日のことを思い出す。
「これ、おじいちゃんちのスイカ!」と言いながら子どもたちと頬張った。

今年、一度もスイカを買うことはなかった。

 

おじいちゃんは、またもう少ししたらきっと「スイカ取りにきや」って言ってくれるだろう。
また畑へ取りに行って、一緒にスイカを食べたいと思う。

続編に続く)

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山の手しごと

すいかとり(前編)

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8月下旬のある日、近所の上田覚さんが田んぼの脇で仕事をしていた。
親しみを込めていつも私は、上田のおじいちゃん、と呼んでいる。

挨拶すると「スイカ、もう少ししたらいい大きさになるき、取りにおいで」と言った。

「来週くらいがちょうどえいと思う」。

声をかけようと思ちょったき、よかった、と笑うおじいちゃん。

こういった出来事に今まで何度も救われて支えられてきたなあと思う。
来週の楽しみがまたひとつ増えた。

 

「来週」、おじいちゃんは電話をかけてきた。

「スイカ、取りに来や〜」

 

夕方子どもたちとおじいちゃんの家を訪ねると、玄関前の池では四角いプラスチックのケースに入った大きなスイカが池に冷やしてあった。無理やり入れたようにケースはパンパンではみ出しそうになっている。

その横を赤や白の鯉たちが泳いでいる風景がなんともいい。

 

 

おじいちゃんと一緒にケースを持ち上げて水からあげる。
ケースからなかなか出でこないスイカ。押したり引っ張ったりしてなんとか出す。
スイカの表面はつるりとひんやりして触ると手のひらにじんわりと冷たい。

おばあちゃんがまな板と包丁を持って来てくれた。
息子が切ろうとするけれど、なかなか刃が中身まで届かない。
見かねたおばあちゃんが「おばあちゃんが切っちゃお!」と交代してくれた。

 

「ザク、ザク、ザク、って音がしゆう」

ぱかっと開いたスイカは赤色だった。もう十分に育っていましたよ、待ってましたよ、と言っているみたいに中身が詰まっていて、もうはち切れんばかり。というよりももうはち切れていた。

 

ザック、ザック、ザック。

おばあちゃんが大胆に、大ぶりに切ってくれた。
「私らあが子どもん時は、こんなスイカはなかったけね。」とおばあちゃん。

 

ガブリ!!

かぶりつくと、めっちゃ甘い!
ポタポタと汁がたれてくる。
口の周りも手もスイカの汁でびちゃびちゃになる。
もう夕ごはんは入らないんじゃないかと思うほど食べた。

 

 

「さ、畑にもあるぞ〜。いこか!」

おじいちゃんと畑へ向かった。

おじいちゃんは肩で息をしながら畑への坂道を登っていく。途中で立ち止まって振り返り、私たちに「先行って」と言う。前はこんなことはなかった。おじいちゃんは春頃から少し体調を崩し、今は起き上がって少しずつ仕事ができるようになっていた。「胸が苦しいんよ」と小さな声で言った。

 

ホースを通って流れてくる山からのゆたかな水。その水を受け止めている桶から水は溢れ出し水路へと流れていく。受け止められて、流れて、またきっといつか戻ってくるのだ。

 

畑にある鶏小屋へ行き、さっき食べたスイカの皮やタネを鶏にあげると争うようにしてついばむ。
スイカに残っていた果汁とタネがはねる。
鶏が食べたこのスイカが卵に変わるのだ。(この鶏の卵をおじいちゃんが育てたごはんにかけて食べる「卵かけごはん」は最高だ!)
スイカを入れるために開けた戸がそのままでも鶏は逃げることがない。そのくらい夢中になって食べている。

こうやって、循環していくのだなと思う。

(後編へ続く)

 

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