今冬は二年ぶりの醤油搾りとなった。
水と塩を混ぜ、天地返ししたり発酵具合を観察したりして大体一年が経過した醤油麹。子どもたちに味見をしてもらうと「しょっぱい!でもおいしい!」と評価をいただいたので、いつもお世話になっている搾り師・トキさんに連絡をして、搾りの段取りを付けてもらう。
長野県まで軽トラでの移動となるので、助手席のパートナーとして毎回子どもをひとり連れて行くことにしている。
これまで、長女長男がそれぞれのタイミングで同行し、貴重な体験をした。醤油搾り旅は、うちの子たちにとって、成長の登竜門的イベントなのだ。今回、小学二年生の次男・耕丸(たがまる)に声を掛けると、「行く!」と元気な返事が返ってきた。
移動距離600キロ弱、休憩しながら片道約10時間。この時間をふたりでどう過ごすかが旅の快適度を左右すると言ってもいい。
息子には、車内で何をするか考えておいて、必要なものを荷物に入れておくように伝えておいた。さぞたくさんの遊ぶものを用意してくるのかと思ったら、彼が用意したのは、「ドラえもん」の単行本一冊だった。
かくして、当日早朝6時ごろ家を出発し、親子ふたり旅がはじまった。
早々に本を読み終わった息子は、オヤツに手を伸ばし、Youtube鑑賞をし、何度かウトウトしつつ、僕としりとりなどした。もっと退屈するのかと思ったら、楽しそうなのが意外だった。普段兄妹と一緒だと自分のやりたいことをやりたいだけすることが難しいので、狭い座席の上とは言え、自分だけの時間を満喫していたのかもしれない。
暗くなる前にはトキさん宅に到着し、翌日翌々日と醤油を搾らせてもらった。
*搾りの様子は、記事「醤油搾り」にあるので、ご興味ある方は覗いてみてください。
作業中、耕丸はたくさん手伝いをしてくれた。醪をお湯で溶いたり、醤油を移し変えるときも、とても慎重に動いていた。知らない間に、僕のスマホを操り、記録動画すら撮ってくれていた。
さて、無事に搾り作業を終えて、予備日として空けておいた四日目はノープラン。雪が積もっていたら、スキー場で遊ぶのも楽しそうだなと考えていたが、一日中しとしとと雨が降る予報で、外出は諦めて室内で過ごすことにした。
トランプなどして大人たちも一緒に遊んだが、特に彼がのめり込んだのは、絵を描くことだった。
壁掛け時計や寝ている猫など目に付くものを、もらった木板の上に、彼独特の捉え方でペンを動かしていく。
その姿を見て僕は、思い出した。彼はこだわりの強い芸術家タイプなのだ。
苦手なことはやりたくないが、好きなことはとことん集中して力を発揮する。彼の場合、それは対象物を細部まで描くことだったり、魚一匹を骨になるまで丁寧に食べることだったり、昼寝中の猫をずっと撫でることだったりする。
五人兄弟の中で、身体は華奢な方だし、口下手だし、勉強はあまり得意とは言えない。のんびり屋でナイーブ、年齢より幼く感じる場面もある。だけど、そんなことは些細なことなんだ、と僕はこの旅で彼を見直すことになった。どんなことでも、それが他の子たちと違っていても、気が済むまでやらせてやりたいと思う。
多忙な暮らしの中で埋もれてしまいがちな子どもたちの成長や変化に、僕はもっと気づかなければ。
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