「想像ラジオ」 いとうせいこう 河出書房新社
小説家、タレント、作詞家、俳優…。様々な肩書を持ついとうせいこう氏の小説には、不思議な浮遊感があるように思います。
東日本大震災から2年後の2013年3月11日に発行された本書は、いとうさんらしいテイストはしっかりありながら、深く心に染みる鎮魂の物語でした。「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聞こえるというラジオ番組が、深夜2時46分、DJアークによって突然始まります。アークがいるのは海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺん。彼も震災により命を落としているらしいのですが…。
たくさんの方が亡くなりましたが、その死は数で語るべきものではなく、一人ひとりの死であることを忘れてはなりません。一人ひとりの死を悼み、死を忘れるのではなく、死とともに生きていくことの難しさと大切さが静かに伝わってくる作品です。
古川佳代子