「ヴァイオリニスト」 ガブリエル・バンサン作,今江祥智訳 BL出版
プロ、アマを問わず、試合勝者へのインタヴューで時々「期待や声援を力に変えて頑張りました」という趣旨の言葉を聞くことがあります。そのたびに、すごいな~、強いな~と感じ入ります。
けれど気にかかるのは同じように努力し、期待され、応援されながら勝者にはなれなかった数多くの人たちのことです。違う場面で勝者となる人もいるでしょうが、勝者とならないまま舞台を去っていく人は大勢いることでしょう。周囲の期待を裏切ってしまうこと、そのなかでも親の期待に応えられないのは辛いことです。
それに囚われ、和解しがたい確執になってしまうこともあるでしょう。そんな厳しい状況で、生きあぐねているヴァイオリニストの青年が、世間一般の成功とはちがう視点で自分の音楽をみつめなおし、自身を認め、受け入れ、生きがいや居場所を見つけるまでを描いているのがこの絵本です。
たぐいまれなデッサン力を活かしたモノクロの画面と、孤独な青年のつぶやきが見事に調和し、素朴な、けれども力強い物語の世界を創りあげています。