とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただいています。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。
鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載されます。
芋つぼ
近所のおばあちゃんの畑には芋つぼがある。畑の脇に立つ三角屋根の戸を開くと、大人2人が入るくらいの深い穴が現れる。そこは岩で囲まれ、厚く敷き詰められたもみ殻の中にサツマイモを入れておくと、冬の間も傷むことなく保存できる。
しゃがんで滑るように穴へ入る。足元はふかふか、もみ殻の中に手を入れると「ぬくいろう」とおばあちゃん。かき分けると大小さまざまな芋が出てくる。探すのに夢中で不意に立ち上がると、屋根に頭をぶつけるので要注意。ネズミがかじった芋もあるけれど、その部分は除けばよい。
さあ帰ろう、と芋の入ったカゴを抱え、見上げた入り口向こうの空はまぶしかった。
家に戻って山の水で芋を洗い、湯をゴンゴン沸かした大釜でゆでる。皮をはいで薄く切り、わらを敷いたえびらの上に並べる。わらのおかげで裏面にも風が通り早く乾く。日の当たる特等席に並んだ黄金色の芋たちは何だか誇らしげで、ずっと眺めていたかった。
これは7年前の出来事だが、昨日のことのように思い出せる。願わくばもう一度、おばあちゃんと芋つぼに入り、あったあったと言いながら芋を探したい。続くと思われた日々は戻ってこない。だからこそ今日という日が尊く、まぶしい。
2024年1月25日の高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。
今回は「芋つぼ」について。芋つぼは、冬の間、サツマイモやカボチャ、里芋などの芋類が傷むことがないよう保存する場所のこと。記事掲載後「懐かしい」「家にもあったよ」という声が届きました。もしかしたら、今も現役で使っているよ、というお家はあまりないのかもしれません。近所のおばあちゃんの芋つぼに入らせてもらったことは貴重な経験でした。
2024年のスタートは地震や事故など心痛む出来事が続きました。朝を迎え、日常を過ごせることは決して当たり前ではないのだと痛感しています。
「続くと思われた日々は戻ってこない。だからこそ今日という日が尊く、まぶしい」。
このことを忘れないように、この記事を書きました。