古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

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「天使のにもつ」 いとうみく 童心社

中学生の職場体験を受け入れたことのある方もいらっしゃると思います。やる気が空回りする子もいれば、そんじょそこらの大人よりも役に立つ子もいて大助かりの時もあります。しかし、どんな場合も一番試されるのは受け入れる大人だということに変わりはありません。

主人公の斗羽風汰は中学2年生。5日間の職場体験先を「楽そう」とエンジェル保育園を体験施設に選びます。事前面接では思惑通りの職場だと思ったのですが、保育園児と向き合う仕事はそんな甘いものではありません。言葉遣いや仕事ぶりを保育士どころか園児たちにもダメだしされる風汰。それでも少しずつ風汰は命を預かる保育師の責任や、やりがいなどに気が付いていきます。

たった5日間のことですから風汰が大きく変わったり、目覚ましく成長するわけではありません。けれども小さな気づきはあり、それが今後の風汰の成長の大きな糧になるのではないかと感じられます。風汰から小さな変化を引き出したのは、受け入れ先の保育園の園長先生や保育士のたちのさりげない対応の数々です。 こういう大人に出会える子どもは幸せだなあと思いつつ、わが身を振りかえって反省したことでした…。

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「家守綺譚 」 梨木香歩 新潮文庫

「影との戦い」(アーシュラ・K.  ル=グィン)のゲドに出会ってから今に至るまで、私の理想はゲドですが、もう一人愛してやまない男性が綿貫征四郎さん。不慮の事故で亡くなった大学時代の友人・高堂の家を守りながら、文筆業で何とか糊口をしのいでいる、新米のちょっと頼りない精神労働者です。

本書では、100年ほど昔の“あわい”に生きるものと征四郎の生活が少しだけ重なったときにおこる出来事が端正な日本語で綴られています。 庭のサルスベリに恋心を抱かれてしまいからかわれると「木に惚れられたときにどうするべきか、またどうしたいのか、まるで思いもしないことだった」と真剣に考え込む征四郎さん。

けれども黄泉の人々に何も思い悩むことのない理想の生活に誘われた際には「そういう生活は、私の精神を養わない」とキッパリ断ります。

世間と少しずれてはいても、人間としては決してぶれない自分がある綿貫征四郎さんは、ゲドに負けず劣らず素敵です。

古川佳代子

 

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「岡潔 数学を志す人に」 岡潔 平凡社

科学的愉快にも数学的自由にも全く興味はなく、もちろん数学を志すなんて露とも考えたことはありません。わたしには一番縁遠い本だなあと思っていたのですが、いろんな偶然が重なって「読まねばなるまい」と意を決して手にとりました。

ところが意外や意外、面白いのです。共感することが多々あって、さくさくと読める読める。あまりに面白くて我ながら不思議だったのですが、数学する、を文学するや思考する、に脳内変換して読んでいるからだとハタと気がついて納得した次第。

「数学の研究を知的にやり、あるいは意志的にやる人はいるが、まだ感情的にやるところまではいっていない」とか「数学は起きている間だけやっているのではない。眠っている間に準備され、目ざめてから意識に呼出し、書き進めているような気がする」などなど。

岡潔は数学者ですから「数学」になるけれど、音楽家や画家、あるいは一般人である私にも、それぞれが生きるうえで大切にしているものがあり、それに置きなおせる普遍的なものについて、数学者らしい知的な語り口で綴られています。

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「あな 」 谷川俊太郎,和田誠画 福音館書店

何かのためでなく、役に立つものでもないただの「あな」。

日曜日の朝、何もすることがないひろしはあなをほることにします。ただそれだけの絵本。 構図もシンプル。色数も最低限に抑えられ、文章も状況描写のみ。 ほとんど何も起こらない絵本なのに、何度読んでも飽きないお気に入りの絵本です。

ふっと肩から力を抜いて掘るのをやめて、あなの底に座り込むひろし。「ここはぼくのあなだ」。このシーンがとても好き。なんだかいいんだなぁ~。

読み終わった後、表紙絵をもう一度見てみてください。どこのシーンかわかりますか?

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「スィート・メモリーズ」 ナタリー・キンシ―=ワーノック作, 金原瑞人訳 金の星社

だれもが忘れられない“美しい素敵な思い出”を持っていると思います。 わたしの思い出は、体が大きくて無口で少し怖い祖父と、どうしてだか家の周りのウバメガシを一緒に剪定することになってしまった時のこと。

切る枝選び方とどのように鋏を入れるのか。簡単に習った後はただひたすら、ちょきちょきちょき…。気づまりで緊張していたのが少しずつ平気になって、祖父と鋏の音で会話している心持になった時間が、今は大事な思い出です。

20年ほど前、この本を初めて読んだとき、鋏の音が通奏低音のようにちいさく聞こえてきました。楽しみにしていたことが流れてしまった残念さ。好きと嫌いの狭間を行ったり来たりする女の子。なにげないエピソードの積み重ねから生まれる幸福な読後感。

久しぶりに読み返したら「佳代ちゃんの切ったところがいちばんきれいじゃねぇ」と言ってくれた祖父の声がして、しばらく余韻に浸ったことでした。

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「舟を編む」 三浦しおん 光文社

 

本好きの人間にとって決しておろそかにしてはいけない書籍に「国語辞典」があります。

その中でも私の宝物は岩波書店の『広辞苑 第6版』。10センチはあろうかという分厚い辞書ですから持ち運びには不便なのですが、この中にありとあらゆる言葉がぎっしりと詰まっているかと思うとそれだけでありがたく、顔がにやけてしまいます。

けれども、そのありがたい辞書がどのようにつくられるのかについては、全く知りませんでした。その過程をドラマティックに示してくれたのがこの『舟を編む』。

言葉に対するずばぬけたセンスを見こまれて、辞書編集部に引き抜かれた青年を中心に綴られる、エキサイティングで地道な作業の数々の愛おしいこと。 できることなら、来世は辞書作りに関わってみたいなぁ。

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「王国  その1  アンドロメダ・ハイツ」 よしもとばなな 新潮社

よしもとばななの小説に出会ったとき、これはすごい!と心の底から思いました。

『とかげ』『キッチン』『TUGUMI』…。出る端から読み漁り、読み終えればひたすら次を待つ。ずいぶん長い間「よしもとばなな病」を患っていたのですが、いつしかぱたりと縁が切れ、ご無沙汰していました。

再び「よしもとばなな病」を患うことになったのは、山の中で素敵なカフェを営む友人から「この本について語り合いたいから読んできてよ」とこの『王国』を渡されてから。 久々に読むばなな作品は新鮮で面白く、瞬く間に引き込まれてしまいました。

山奥に居を構え、薬草のお茶で病をいやす祖母との暮しから一変し、都会でくらすことになった18歳の少女雫石(しずくいし)。 雫石と目の不自由な占い師・楓との運命的な出会いからはじまる不思議な関係、ばなな作品特有の家族以上に親密な疑似家族の細やかな描写…。1巻を読み終えた後、続きを借りてこなかったことをどんなに悔やんだことか…。

よしもとばなな、やっぱりよいなぁ!

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「西の魔女が死んだ」 梨木香歩 新潮社

西の魔女が死んだ、というなんともインパクトのある言葉。この言葉に導かれて、西の魔女こと祖母とまいが一緒に暮らした二年前の回想が始まります。

「扱いにくい子」で「生きにくいタイプの子」のまいは、中学校に通うことの出来なくなり、しばらく祖母の家で過ごすことになります。 祖母に手ほどきをうけながら、まいは魔女修行を行います。修業の極意は「何でも自分で決める」というもの。簡単そうで実は難しい魔女修行を通じて、まいは少しずつ失っていた自信を取り戻していきます。

この修行の中で重要な役割を担っているのが、日々の生活の基本を整える食事の準備や洗濯といった家事全般。庭でレタスとキンレンカを摘んで作るサンドイッチ、大きなバケツ3つ分のワイルドストロベリーでつくるジャム、洗いたてのシーツをラベンダーの上にひろげて花のかおりをうつす…。

こんな魔女修行なら私も弟子入りして修業を積みたいと何度思ったことでしょう!

文庫版にはハードカバー版にはない、その後のまいの物語「渡りの一日」が収録されています。

古川佳代子

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「しろいうさぎとくろいうさぎ」 ガース・ウィリアムズ文・絵,  松岡享子訳 福音館書店

この絵本に初めて出会ったのは、中学1年生のころだったように記憶しています。

ちょっと背伸びして『風と共に去りぬ』や『パピヨン』、『ペスト』などを読んでいたのですが、図書館の絵本コーナーに立ち寄ったとき、面展示されていました。

愛らしいふわふわの毛並みの二匹のうさぎのなんて幸せそうなこと!読み終えるのがさみしくてじっくりゆっくり時間をかけてページをめくりました。

その時からずっと大切な本の1冊だったのですが、 或る日、想いも書けないところで絵本と再会。なんと高校時代の友人の結婚式の引き出物が『しろいうさぎとくろいうさぎ』だったのです!

大好きな友人でしたが、私の中で彼女の株がますます上がったのは言うまでもありません。 今でもこの絵本を読み返せば中学生の時の自分のことや、結婚式での幸せいっぱいの友人の笑顔が思い出されます。

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「どろぼうの神さま」 コルネーリア・フンケ著 細井直子訳 WAVE出版

カナダのプリンスエドワード島、アイルランドのパブ、イギリスのパディントン駅…。訪ねてみたい場所は色々あるのですが、イタリアの水の都ベネツィアもそんな場所の一つです。

「どろぼうの神さま」というタイトルに惹かれて本棚から抜き出すと、目に飛びこんできたのは、水色の空を背景に黒い不思議な形の仮面をかぶった少年の姿。足の下には石造りのライオン…。「あ、ベネツィアだ~」。本の分厚さに少したじろぎながらも、読んでみることにしました。

それぞれに理由を抱え、家を飛び出し、廃墟となった映画館でくらしている子どもたち。彼らを統率し生活を支えているのは、どろぼうの神さまと名乗る謎の少年スキピオ。子どもの楽園のような心躍る冒険の毎日が、リアルな街の風景描写によって現実感をともなってぐいぐいと迫ってきます。そして最後に用意されたアッと驚く仕掛けに茫然。

気がつけば500ページ近くある作品を一気に読んでしまっていました。

古川佳代子

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