古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

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「カメラを止めて書きます」 ヤン ヨンヒ CUON

過日、ずっと観たいと思いながらその機会を逸していたヤン ヨンヒ監督のドキュメンタリー映画「スープとイデオロギー」を観ることができました。

済州島出身の両親を持つ、日本生まれ日本育ちのヨンヒさん。3人の兄を北朝鮮に「帰国」させたのをずっと恨みに思い、でも両親にその思いをぶつけることはできず、「帰国」させたことを本当はどう思っているのか両親に尋ねることは憚られ…。時にユーモアも交えながら、国家に翻弄された家族の歴史を描きだした素晴らしい映画でした。

この「スープとイデオロギ―」の前に撮られた「ディア・ピョンヤン」、「愛しきソナ」と合わせ、家族ドキュメンタリー三部作のなかでは撮ることのできなかった様々を「カメラを止めて書いた」のがこのエッセイです。

家族の映画を撮り発表するたびに、家族と会うことができなくなったヨンヒ監督。それでも「家族は消えない、終わらない、面倒でも会えなくても死んでも家族であり続ける」実感を持ち続けることができたのはどうしてか。何が彼女を支え、強くし、今のヨンヒ監督を作り上げてきたのかが、丁寧に綴られています。

機会があれば映画もぜひ観てほしいなぁ…。

 

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私の一冊

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『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』 小野寺拓也, 田野大輔著 岩波書店

戦後教育を受け、平和憲法の素晴らしさを学んだ身にはとても残念なことですが、「ナチスは良いこともした」という議論が時々繰り返されています。なにをバカなことを、そんなこと誰も信じないでしょう、と思ってはいても「良いことをした」と主張する人は少なくなく、これは一体どういうことなんだろうと思っていた時にめぐり合ったのが本書でした。

ナチズムをプラス評価する際に例として挙げられる「アウトバーンの建設」、「フォルクスワーゲンの開発」、「手厚い家族支援策」、「歓喜力行団の旅行事業」等など。これら一見先進的に見える政策の不正や搾取・略奪と結びついていたことを、公に認められている資料から検証し、多角的な視点による考察を述べています。

2022年の学習指導要領施行により高等学校では「歴史総合」がはじまりました。指導要領では「近現代の歴史の変化に関わる諸事象について、世界とその中の日本を広く相互的な視野から捉え、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を理解するとともに、諸資料から歴史に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする」ための科目であると定められています。

今を生きる若者たちに手渡したい1冊です。

 

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私の一冊

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「ガザ 戦争しか知らないこどもたち」 清田明宏 ポプラ社

シナイ半島の北東部、東地中海に面した360平方キロメートルほどの小さな土地。壁に周囲を取り囲まれ、まるで収容所のような都市“ガザ”。この地域では「イスラエル」と「パレスチナ」二つの国が何十年もの間、争い続けています。

21世紀以降に限ってみても、2006年、2008年~2009年、2012年、2014年、2018年と戦争が起きており、2023年10月にはこれまでの5度の戦争と比べても一番悲惨だ、といわれるほどの戦いが始まってしまいました。

この写真絵本は今から8年前、2015年に出版され、戦争を生きのびる日々しか知らない子どもたちの過酷な生活を伝えてくれました。そして、ガザを再建していく希望の未来、これ以上「戦争しか知らないこどもたち」を増やしてはならないという決意に満ちていました。それはこの本を手に取ったすべての人に願いでもあったと思います。けれど現実は厳しく、再び両国間で戦争は起こり、多くの子どもたちや市民が命を落としています。

一日も早く武力ではなく知力で平和な日常を取り戻し、戦争しか知らない子どもたちが、戦争を知らない子どもたちの親となる日が来ることを願ってやみません。

 

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私の一冊

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「せんそうがおわるまで、あと2分」 ジャック・ゴールドスティン作,長友恵子訳 合同出版

第一次世界大戦は1918年11月11日午前11時に終結しました。そのわずか2分前、1918年11月11日午前10時58分に、カナダ兵のジョージ・ローレンス・プライス(当時25歳)は戦死しました。そのエピソードをもとに生まれたのがこの絵本です。

主人公のジュールとジムは、同じ日に、同じ町で生まれました。先に生まれたのはジムで、ジュールはジムより2分あとに生まれました。何をするのも二人は一緒でしたが、ジムがいつも先頭でした。2分早く生まれたジムの方が、足も速いし強かったからです。

ヨーロッパで戦争が始まったとき、二人は軍隊にはいりました。戦争はふたりが思い描いていたものとは全く違い、みじめでひどいものでした。戦場でも二人はお互いを支え合い、なんとか生きのびていました。そして、やっと戦争が終わるというそのわずか2分前…。

世の中に「良い戦争」などあり得ません。戦争はどんな大義名分があっても、愚かで理不尽でみじめなものです。平和憲法のもと、戦争をしない国であるはずの日本ですが、この平和がいつまで続くのか不安になる時があります。絵本を読んだ後、改めて戦争と平和について思いをはせたことでした。

 

 

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「伝言」 中脇初枝 講談社

2021年11月下旬から12月上旬にかけて高知市文化プラザかるぽーとで、中国大陸から引き揚げる日本人の姿を描いた王希奇(ワンシーチー)さんの絵画「一九四六」の展示会がありました。自身も引揚者のひとりであった知人から案内を頂き、会場に出かけました。

縦3メートル、横20メートルの大作には、敗戦の混乱のなか、何とか生き延び、葫蘆(ころ)島の港にたどりついた人びとの姿が描かれていました。その表情、佇まいからは言葉にできない疲弊と絶望が伝わってくるばかりで、かすかな希望も見えません。絵に沿って端から端までゆっくりと進んでいくうちに、自分も行列の一人であるような心持になり、不安と怖さで涙がこぼれそうになりました。

この絵画展開催のために、中心になって尽力されたおひとりが﨑山ひろみさんでした。その﨑山さんの満州での生活や戦時中の日々の様子、満州から日本への引き揚げ等のこと、そして…。

綿密な取材と資料をもとに書かれた物語は、読むことがつらくなる時もありました。それでも、これは読まねばならない作品だと活を入れて、何とかよみおえることができました。忘れたり、なかったことにしてはいけない、過去からの伝言をしっかりと受け止め、次の世代に伝えなくてはと思います。

 

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「挑発する少女小説」 斎藤美奈子 河出書房新社

子どもの頃に出会ってから何度も何度も繰り返し読んでいる『赤毛のアン』や『あしながおじさん』『若草物語』などなど。これらいわゆる翻訳少女小説のどこに惹かれ、今に至るまで飽きることなく読み返しているのか?我がことながら不思議に思っていたモヤモヤに、合点のいく見解を示してくれたのがこの本でした。

本書では9作品が取り上げられていますが、それぞれに曰く、シンデレラ物語を脱構築する『小公女』、異性愛至上主義に抵抗する『若草物語』、出稼ぎ少女に希望を与える『ハイジ』、生存をかけた就活小説だった『赤毛のアン』、社会変革への意思を秘めた『あしながおじさん』、とまったく想像もしなかったキャッチコピーが充てられています。けれども読み解けば、どれも納得のコピーばかり。

不自由な環境の下に置かれ、理不尽な理屈やモラルを押し付けられてもそれに屈せず、己の才能と矜持を武器に健気に戦っていたアンやジュディ。「子どもだから、女だからって見くびられちゃダメよ!」という彼女たちからのメッセージに励まされ、慰撫してもらった子ども時代のなんと幸せだったことか。頭を上げ、明日を見据える凛々しいジョーやローラのまなざしに負けない自分でありたいものですが、さて?

 

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『銀座「四宝堂」文具店』 上田健次 小学館

銀座の片隅にある老舗文具店「四宝堂」。創業は天保五年(1834年)と歴史ある文具店の現在の店主は宝田硯。まだ三十代半ばと若いながら、文具を愛することと客への気配りは、誰にも引けを取らない銀座の名物店主です。

第一話「万年筆」は、親に代わってずっと慈しんで育ててくれた祖母のため、初任給で求めた贈り物に一筆添えようと店を訪ねた青年が主人公のお話しです。店主に案内された棚には、手漉き和紙や押し花を漉き込んだ洒落たもの、粋な洋箋や封筒がぎっしりと並んでいて目移りするばかり。店主に助言をもらってなんとか便箋と封筒を決めた青年が取り出したのは、まだ一度も使ったことのない万年筆。それは

小編5編が収められているのですが、客と文具をめぐる人情味あふれるエピソードはどれも味わい深く、読後感は申し分ありません。

夏の暑さも峠を越し、読書によい季節となってきました。秋の夜長のおともにいかがでしょうか?

 

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「風が吹くとき」 レイモンド・ブリッグズ作, さくまゆみこ訳 あすなろ書房

イギリスの田舎で穏やかな生活を送っている老夫婦。悠々自適に暮らしていたある日、町に出かけた夫は、戦争が起こるかもしれないと妻に話す。若いころ世界大戦を経験している妻は、話半分に聞き流す。

それよりも大事なのはお昼ごはんの献立だ。メインはフレンチフライなのかソーセージなのか?デザートはパイかプディグか?だって戦争なんて起こるはずはないし、万が一起こったとしても爆弾が2、3発落ちて、そのうちな~んだってことになるわよ、と…。

ところが突然ラジオから「3日のうちに戦争が勃発しそうだ」と政府発表が流れてくる。焦る夫と日常生活を守ろうとする妻。政府の言うことを盲目に信じる夫婦は、自分たちがどんどん死に向かっていることに気がつかない、いやそれとも気がつかないふりをしているだけなのか?

20数年前に出された絵本だけれど、まるで今の世界状況を予言しているようでドキドキしながら読み返しました。読むのがつらくなるかもしれないけれど、だからこそ、目をそらさずにたくさんの方に読んでほしい絵本です。

 

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「100年たったら」 石井睦美文,あべ弘士絵 アリス館

出会った瞬間から、親しみをもったあの人。そばにいるとしっくりとして、心地よさを感じる友人。もしかしたらその人は、遠い昔どこかで一緒にすごしたことがある、大切な存在だったのかも? そんなことを思うようになったのは、この絵本を読んだからです。

ずっと昔、広い草原にたったひとりで暮らすライオンがいました。ほかに動物はなく、ライオンは草や虫を食べて飢えをしのいでいました。ある時、ライオンの目の前に、ぼろぼろの翼をしたちいさな旅鳥のヨナキウグイスが降り立ちます。鳥はライオンに自分を食べればよいといいますが、ライオンは断ります。その時から、ライオンと鳥の、穏やかで幸せな暮らしがはじまります。

けれどもヨナキウグイスに残された時間はわずかしかありませんでした。別れが迫ってきたとき、ずっと一緒にいたいというライオンに鳥は「100年たったら、またあえる」と言い残してこと切れます。

100年後、ライオンは貝に、鳥は波に生まれ変わっていました。また100年たったとき、ライオンはおばあさんに、鳥は赤いひなげしの花になっていました。

そうやって100年ごとに、ライオンと鳥は生まれ変わり、ある時は魚と漁師に、ある時はチョークと黒板に、あるときはリスと雪のひとひらに生まれ変わっていました。そして…。

生まれ変わり、再会しても、お互いのことは知らないままのライオンと鳥。それでも一緒にいると、なにかしら嬉しい気持ちになるのです。そうして流れていく長いながい時間を思うと、切なさの少し混じった“哀しい幸せ”を感じるのでした。

 

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「ライラックどおりのおひるごはん~みんなでたべたい せかいのレシピ~」 フェリシタ・サラ作, 石津ちひろ訳 BL出版

食べることは好きですか?くいしんぼの私は、もちろんイエス!寒い朝でもチョコレートケーキがあると思えば機嫌よく起きられるし、猛暑のなかの買い物も、帰りにかき氷を食べよう、と思えば元気に出かけられます。

ライラックどおり10番地のアパートに住む人たちも、みんな食べることが大好き。近くまで行くと、とてもいいにおいが漂ってきます。いったい何をつくっているのか、ちょっと覗いてみましょう。

スペインからきたピラールは、トマトの冷静スープ“サルモレホ”を作っています。おむかいのマリアは、アボカドをつぶして “ワカモレ”をつくっています。ムッシュー・シンは “ココナッツ・ダール”を、マチルダは “ストロベリー・クランブル”を、日本からやってきたイシダさんは、とりモモ肉にみりん、しょうゆ、卵、だし、ご飯を用意して…。アパートのみんなのお得意料理ができあがったら、庭に持ち寄って楽しいランチタイムのはじまりです!

手作りのおいしい料理を一緒に食べれば、仲良くなれること間違いなし!心もお腹も(?)満たされる「おいしい絵本」をお楽しみください。

 

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