古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

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「偶然の散歩」 森田真生 ミシマ社

数年前、土佐町で森田真生さんの講演会があるのだけれど行ってみない?と友人が誘ってくれました。その少し前に『数学の贈り物』を読んで、その端正な文体に魅了されていた私は即答で「もちろん!」。期待でわくわくしながら、当日を待ったことでした。

森田講演会に出かけたことがきっかけで、土佐町にご縁を得、今こうして仕事をしているのですから、人生何が起こるかわかりません。そんなこともあり、森田真生さんは私にとって大事な存在で、新作が出ると読まずにはいられない作家の一人です。

ごくありふれたこと(に見えるあれこれ)から、そのどれもがありふれたものはなく、様々な偶然の重なりの結果なのだと伝えてくれるエッセイの数々。その言葉に触れるたび、自分を取り巻くいつもの風景、いつもの会話が、貴重で美しいものに感じられました。

 

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「美しいってなんだろう」 矢萩多聞,つた 世界思想社

2002年から本作りの仕事に関わり始め、これまでに350冊を超える本の装丁を手がけていらっしゃる矢萩多聞さん。

9歳のとき両親とはじめての海外旅行でネパールを訪れたそう。それを契機に人生ががらりと変わったわけではないけれど、それを境に、緩やかに人生の潮目が変わったとふり返る。

父になり娘のつたさんが9歳になったとき、矢つぎばやに問いを繰り出してきた「美しいってなんだろう」「絵や文字を書くのが上手いこと下手な子がいるのはなぜ?」「魚のように泳げる子とそうでない子がいるのはなぜ?」。

そこから多聞さんは自問する。美しいもの?美しいもの…。多い出されるのはインドの何のことはない日常の風景。ココナッツ売りの見事なナタさばき、水牛のそそり立つ角、鉄鍋で塩豆を炒る音。 美しいものは、ときにはみにくく、残酷でもあると語る多聞さん。

私も自分に問いかけてみる。「美しいってなんだろう?」。

 

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「ルリユールおじさん」 いせひでこ 講談社

ソフィーの宝物は大きく立派な植物図鑑です。ところが何度も何度も読んでいるうちに閉じ糸は弱くなり、ある日、ページがばらばらになってしまいます。本屋に行けば新しい図鑑はたくさんあるけれど、ソフィーに必要なのは、この本を直してくれる人でした。

やっと見つけた「ルリユールおじさん(製本職人)」は、図鑑がソフィーにとってどんなに大切なのかを理解し、丁寧に綴じ直し、世界にたった一冊の図鑑に生まれ変わらせてくれました。本を抱きしめたソフィーの姿のなんて幸せそうなこと。このシーンを読むたび、私も幸せな気持ちになります。

興味津々でおじさんの周りをうろうろしながらおしゃべりするソフィーと、ルリユールおじさんの受け答えから醸し出される穏やかで満ち足りた時間は絵本ならではのもの。おとなの方にも楽しんでほしい作品です。

 

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「生まれかわりのポオ」 森絵都作 カシワイ絵 金の星社

動物を飼っていれば避けることのできないものに、永遠の別れがあります。いつか来ることがわかっていても、それは悲しいことだし、受入れることは簡単ではありません。

ポオは最初はママの猫だった。白に黒のぶち模様があって、背中の真ん中の模様はきれいなハートマークをしてるんだ。ポオを見たとたん“ビビッ”と感じたママはポオを飼うことに決めたんだって。 そして9年前、ぼくが生まれた。ぼくとママとポオ。生まれた時からこれがぼくの家族だった。
でもぼくよりずっと年上だったポオは、おじいちゃんになるのも早かった。うすうす、その日が来ることは、わかっていたけれど、ほんとうにその日が来た時、ぼくはただただとほうもなくさびしくて、考えることは一つきり。「ポオに会いたい」ただそれだけだった…。

あたりまえがあたりまえじゃなくなることの喪失感を埋めてくれるもの。それはたとえば、一つのものがたりかもしれないし、世界に対する新しい視線なのかもしれません。これから先、何度も体験するだろう別れのときに、この本のことを思い出せたら良いなあ。

 

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「クマと森のピアノ」 デイビッド・リッチフィールド作 俵万智訳 ポプラ社

はじめて書店で見たとき、まずは表紙にひと目ぼれ。少し開いた上品な深紅の緞帳の向こうで、燕尾服のクマが、木製のアップライトピアノに向かって演奏しています。そのコントラストのなんと洗練されて素敵なこと!表紙に続く木漏れ日の耀く木立の美しい風景に誘われ、あっという間に絵本の世界に引きこまれてしてしまいました。

ごく小さい時に森の中でピアノに出会ったクマのブラウン。それが何なのかも知らなかったけれど、鍵盤に触れ、その音を聞いた時から心を奪われ、毎日毎日ピアノに触れにやってきます。拙く途切れ途切れだった音が少しずつなめらかになり、いつしかその音はメロディーとなり、森の動物たちの心をとらえます。そしてある日のこと…。

こどもの時に出会うのか、20代なのか60代なのか…。出会う年代や人生経験のちがいで様々な受け止め方になるだろう本書。BGMにお気に入りのピアノ曲等を流しながら、静かにじっくりと味わってほしい絵本です。

 

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「本屋という仕事」 三砂慶明 世界思想社

誰かと待ち合わせするとき、みなさんはどこで待ち合わせをしますか?喫茶店?公園?文房具店?

学生のころから一貫して、わたしのお気に入りの待ち合わせ場所は本屋さん。ここなら早く着いても、相手が遅くなっても機嫌よく過ごせます。

本屋は本を買う場所ですがそれだけではありません。地域の情報発信拠点として、本を核に人と人、人と地域、地域と地域を結ぶ場所でもあります。

梅田蔦谷書店の人文コンシェルジュにして同点で本と人をつなぐ「読書室」を主宰されている三砂慶明氏編による多角度から迫る「本屋という仕事」。なにもなかった場所に本屋を起こした人、書店員として“本屋とは”に向き合い取り組んできた人、本屋に新たな付加価値を与えこれからの本屋のあり方についてユニークな活動を実践している人…。

日本各地の本屋とそこに働く書店員たちの生きる世界を生き生きと伝えてくれる一冊です。

 

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「サステイナブルに家を建てる」 服部雄一郎, 服部麻子 アノニマ・スタジオ

アメリカ、南インド、京都を経て、2014年に高知県移住された服部雄一郎さん一家。ご家族で楽しみながらプラスティックフリーやゼロウェイストの実践的な取り組み、サステイナブルな暮らしをされています。引越しによる刺激や発見を楽しんでいらした一家が大方向転換(?)。3年の道のりを経て、昨年家を建てられました。

家を育て、引き継いでいく「100年を目指す家」が建つまでのプロセスはそんじょそこらの物語よりも刺激的でドラマティックです。家を建てるって思いもかけないアクシデントも多々起こることだと思いますが、その苦労さえも楽しく語られる雄一郎さんと麻子さんお二人の洒脱な文章の素敵なこと!

おすすめの一冊ですがひとつだけご注意申し上げます。この本を読むと「家を建てたい病」に罹患するかもしれません。もし罹患されても責任は一切取りませんので、くれぐれもご用心くださいね。

 

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「宙(そら)ごはん」 町田そのこ 小学館

 気の置けない友人や大好きな人との食事を一緒に取る時、しみじみと「幸せだな~」と思います。ましてやそれが好物のお菓子や美味しいレストランでの食事だったら、これぞ「至福」というもの。でもなかなかそんな時間の取れないときは、美味しいものが出てくる本を読むのも良いものです。

「和菓子のアン」、「幸福な食卓』、「喋喋喃喃」…。美味しいものが出てくる本はたくさんあって嬉しい限りですが、そのラインナップに新たな本が仲間入りしました。

タイトルにある宙(そら)は主人公の女の子との名前です。ママ(育てるひと)とパパがいて、お姉ちゃんがいて、しかもお母さん(産んだひと)がいるなんてとてもラッキーだと思っていた宙でしたが、ある時同級生のマリーに「かわいそう」と言われます。それまで全くそんな風に思ったことのない宙ははじめて自分の境遇を「かわいそうなのかな?」と思い始めます。

そんな思いもあってか、パパが外国に転勤することになったとき、宙はママたちと一緒に外国に行くかわりにお母さんと一緒に暮らすことにします。ところがお母さんは料理はできないし、宙の面倒も見てくれません。そんな宙を救ってくれたのはお母さんがやとった“やっちゃん”の作ってくれる美味しい食事なのでした。

「第一話 ふわふわパンケーキのいちごジャム添え」、「第二話 かつおとこんぶが香るほこほこにゅうめん」、「第三話 あなたのための、きのこのとろとろポタージュ」…。どうです、美味しそうでしょう?

 

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「ヒナゲシの野原で~戦火をくぐりぬけたある家族の物語~」 マイケル・モーパーゴ 評論社

マルテンスの家の玄関には額に入った紙っきれがありました。その「紙っきれ」にはえんぴつで詩が書いてありました。

 

フランダースの野にヒナゲシの花がゆれる  何列も何列もならぶ十字架の間に。

空にはヒバリが 勇敢にさえずっては飛ぶ 砲声に声をかき消されながらも。

俺たちは死者。ほんの数日前まで、 生きて、夜明けを感じ、夕焼けを目にし、 人を愛し、人に愛されていた。

だが今、俺たちは横たわる このフランダースの野に

 

この紙っきれを持って帰ってきたのはおじいちゃんのお母さん、マルテンスのひいおばあちゃんのマリーでした。

ある日おじいちゃんはこの詩とおばあちゃんのことを話してくれました。その日から、マルテンスにとってもこの詩は大切なもの、お守りのような存在になるのでした…。

第一次世界大戦後、英連邦の国々では戦没者追悼記念式典を11月に行ないます。その折、追悼する兵士のシンボルになるのは赤いヒナゲシの花。永遠に戦争がなくなり、世界の人々が和解し、愛し合い、平和に暮らせる日がいつかきっとくる、という希望の象徴になぜヒナゲシが使用されるようになったのか。その由来が語られる巻末もぜひお読みください。

 

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「おとなってこまっちゃう」 ハビエル・マルピカ作, 宇野和美訳, 山本美希絵 偕成社

メキシコは日本と同じく、男は男らしく、女は女らしくという考え方が伝統的に強い国だそうです。とはいえ、2021年1月の列国議会同盟のデータによると、メキシコは国会議員の女性比率が48.4%で、世界で6番目に高い国でもあります(ちなみに日本は9.9%で166位)。このように女性の社会進出が進んでいるメキシコで、現役の弁護士として活躍している母親を持つ女の子・サラが本書の主人公です。

人権派弁護士のママは世間の偏見に真っ向から挑み、サラの叔父(母の弟)のサルおじさんがゲイだということにも誰よりも早く理解を示しました。友だちの悪口を根拠もなく言えば即座にたしなめてくる、自慢のママです。 ところがおじいちゃん(ママの父親)が再婚することにしたと聞いた時、ママはかんかんになって反対します。ましてや相手がママと同じくらいの年齢の女性だと知ると、まったく聞く耳を持ちません。 なんとかしてママがおじいちゃんの結婚を受入れてくれるよう、別れて暮らすパパやおじさんを巻き込んで奮闘するサラの姿に、ハラハラさせられたりニヤリとしたり…。

とても楽しいコメディータッチの物語でありながら、性別や世代にとらわれず、自由な価値観や多様性を大切に生きていくことの素敵さも伝わってきます。

 

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