古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「タンタンタンゴはパパふたり」 ジャスティン・リチャードソン&ピーター・パーネル文, ヘンリー・コール絵 ポット出版

今から一昔前の2008年に翻訳出版された絵本(原作は2005年出版)ですが、知ったのは2年前、ブレイディみかこさんの著書『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がきっかけでした。そこで「英国保育業界のバイブル。『はらぺこあおむし』や『かいじゅうたちのいるところ』と同様、どこの園にも必ずある名作」と絶賛されており、そんな名作を知らなかったなんて…、と不覚を恥じて即、読んだのでした。

NYのセントラルパーク動物園で恋に落ちた二羽のオスのペンギンの話で、実話に基づいて生まれたという絵本。男と女、夫婦、親子関係などを「こうでなくてはいけない」という鋳型にはめ込んで考えるのではなく、自由で色彩に満ちた世界をありのままに受け入れられる感性・素地を作ってくれるのは、こういう絵本なのではないかと思います。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「テンプル・グランディン  自閉症と生きる」 サイ・モンゴメリー著, 杉本詠美訳 汐文社

コロラド大学准教授のテンプル・グランディン博士は大柄で力が強く、自信にあふれて見えます。けれども本当は、自閉症を抱えている内気な女性です。専門は動物学。非虐待的私設の設計者として活躍しており、過去にはタイム誌の「世界で最も影響力をもつ100人」に選ばれたこともあります。

グランディン博士の生い立ちと、物事を「絵で考える」という特性を生かし、動物虐待防止の観点から彼女が設計畜産施設や食肉処理用の設計システム、そしてそれらが受け入れられる過程などが詳細に紹介されています。 畜産施設や食肉処理場に動物虐待の視点が必要などとは考えたこともありませんでしたが、「家畜によい一生を与えてやることは、私たち人間の務めである」と、家畜動物の福祉の必要性を説く言葉は、どれも記憶に刻まれる言葉ばかりでした。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「雪渡り」 宮沢賢治作, たかしたかこ絵 偕成社

冬になるとなぜだか宮沢賢治の作品を読みたくなります。「銀河鉄道の夜」「よだかの星」「どんぐりと山猫」…。どれも大好きな賢治の作品ですけれど、一番好きなのは「雪渡り」です。

寒いのは大の苦手ですが、雪渡りで描かれる一面の雪に覆われた野原や森の情景は、泣きたくなるほどに美しく、慕わしく思われ、清らかな寒さの中に身を置きたくなります。

「堅雪かんこ、凍み雪しんこ」「キックキックトントン、キックキックトントン」…。

文体はもちろん、四郎とかん子やオノマトペは何ともリズムがよく、声にだして読めばその都度、素朴な感動に満たされます。この幸福感は、賢治作品を読んだ時にしか味わえない、独特なものであるように思われます。

ここ数日で土佐町もずいぶん寒くなってきました。熱い甘酒と共に今夜あたり「雪渡り」を読み返してみましょうか…。

 

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「すごいね!みんなの通学路」 ローズマリー・マカーニー文 西田佳子写真 西村書店

令和二年度SDGs未来都市に土佐町は選定されました。全国で33団体、高知県では初の選定です。この取り組みを通して子どもたちには、土佐町や高知県に終わらず広い世界へも興味を持ってもらえたらと願います。それは大人だって同じこと。世界への扉を開いてくれる本をどんどん読んでほしいものです。とはいえ、本を読むまとまった時間を取るのは難しいもの。そんな時、お勧めなのがノンフィクション絵本です。

通学手段と聞いて思い浮かぶのは徒歩や自転車、スクールバスあるいは自家用車などですよね。けれども毎日が冒険!というような手段で学校に通っている子どもたちも大勢います。手漕ぎのボートで通うカンボジアの女の子たち。絶壁の細い山道を歩いて通う中国の子どもたち。山に住むフィリピンの子どもはワイヤーを2本わたしただけの橋(?)をつたって通う子どもの姿にはビックリ!これは絶対私には無理だな~。身近な通学路でもなんて違いがあるでしょう。

同じ空の下、同じ時間を生きていても生活環境、日々の暮らし方は千差万別。世界って広いな~としみじみ感じ入ったことでした。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「線は、僕を描く」 砥上裕將 講談社

生きていく気力を失うほどの痛手を負ったとき、人はどうやって生きのびていくのでしょう?

どのくらいの時間をかければ、再び生きていく気持ちを取り戻せるのでしょうか?

大学生の青山霜介の場合は“水墨画”との出会いが“それ”でした。全く水墨画の知識はなく、興味関心もなかった霜介でしたが、アルバイト先で出会った水墨画が、恢復へと導いてくれたのでした。

水墨画とは筆先からうまれる「線」の芸術です。そして線が描くのは題材である草木の命です。草木の「生」に寄り添い、有りようを探り、描きながら、霜介は再び生きる力を取り戻していきます。

霜介を取り巻く登場人物も魅力的ですが、なかでも師匠である湖山先生の言葉は含蓄にあふれています。「できるのが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」「挑戦と失敗と繰り返して楽しさを生んでいくのが、絵を描くことだ」などなど。これらの言葉は主人公にかけられた言葉ですが、読み手の私にも響く言葉の数々に出会えた本でした。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「みずをくむプリンセス」 スーザン・ヴァーデ文 ピーター・H・レイノルズ絵  さくまゆみこ訳  さ・え・ら書房

ジージ―はアフリカのプリンセス。ジージ―の王国はアフリカの空。野良犬と歌い、草と踊り、風とかくれんぼすることだってできます。

そんなジージ―でも、水をよびよせることや水をきれいにすることはできません。まだ夜が明けきらない暗い朝。ジージ―とお母さんはずっとずっと遠くまで水を汲みに行かなくてはなりません。 水を汲みに行くジージ―の一日からは、水問題についての現状が端的に伝わってきます。

またあとがきでは、この絵本が生まれたきっかけや、清潔で安全な水を手に入れることが困難な人々が現在も多数いることを伝えてくれます。とても大切なさまざまなことを考えさせてくれる絵本です。が、それとともに、絵の素晴らしさも味わってほしい作品です。

歌い踊っている時のジージ―のしなやかな体。頭に壺をのせたジージ―と母親の堂々とした足取り。水くみに行く人々のシルエットの美しさ…。過酷な現状を伝えるとともに、生活を楽しみ、お互いをいつくしみ合っている家族の豊かな日常の感じられる絵本です。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「児童文学の中の家」 深井せつ子 エクスナレッジ

こどもの頃楽しんだ物語には、美味しい食べものがたくさん出てきました。タフィー、チョコファッジ、木イチゴのタルト、レアケーキ、クランペット、ジンジャ―ビスケット…。どれも未知のお菓子ばかり。端っこでいいからかじってみたい!と、どんなに願ったことでしょう。

それと同じくらい憧れたのが主人公たちの部屋や設え、衣装などでした。異世界に通じる衣装ダンス、ふくらんだ袖、グログランレース、丸太を組んだログハウス、干し草の匂いのベッド、星の見える屋根裏部屋…。どれもすてきで、畳敷きの自分の部屋をとてもつまらなく思ったことでした。

この本では『ライオンと魔女』、『床下の小人たち』、『大きな森の小さな家』、『ハイジ』、『赤毛のアン』など計27作品が取り上げられており、家の間取りや家具や道具等が柔らかなタッチで描かれています。もう少し詳細に描いてほしかったと思うところもないでもないのですが、それはそれ。「想像の余地」があるのもすてきです。

しばらくぶりに、アンやハイジ、ローラたちにあいたくなりました。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「ガチガチの世界をゆるめる」 澤田智洋 百万年書房

物心ついてから今に至るまで一度もたりとも運動が得意、あるいは楽しいと思ったことのない「運動能力不自由」者、それが私です。

大きいのもちいさいのも、どんなボールとも仲良くできないから球技は全滅だし、早く走れず高くも飛べず強くもないですから、やってみたいスポーツはありません…。でも、この本にでてくるゆるスポーツならやってみたいかも!?

500歩しか動いてはいけない5対5でやる「500歩サッカー」。はらぺこあおむしみたいなイモムシウエアを着て行う「イモムシラグビー」。中央にブラックホールが空いたラケットで卓球をする「ブラックホール卓球」…。どれもとても楽しそう! 自分の得意なことや強みもたいせつだけど、強み以外の「何気ない自分らしさ」も大切ですよね。「私これできません」と堂々と言える世界ってきっと誰にとっても居心地がいいはず。まずは自分のガチガチの常識を緩めると頃から始めてみようと思います。

作者の澤田さんは、「あなたが生まれなければ、この世に生まれなかったものがある。」などのコピーを世にだしているコピーライター。そして、世界ゆるスポーツ協会代表理事、(一社)障害攻略課理事として福祉領域におけるビジネスのプロデュースなども手掛けているそうです。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「男の子でもできること~みんなの未来とねがい~」 国際NGOプラン・インターナショナル文 , 金原瑞人訳 西村書店

男女平等といわれて久しいですが、家で、組織で、社会で、男の子と女の子の扱いはまだまだ違います。でも、一度刷り込まれた価値観を変えるのはなかなか大変なこと。世界を変えるなら、今を生きる男の子たちの価値観こそ大事!と、希望を託して生まれた写真絵本です。

「男の子に生まれてよかった」と思うことがあったら、「あ~、女の子でなくてよかった」と思うことがあったら、ちょっと待って!

その「女の子」は妹やお姉さんかもしれないし、お母さんやおばあさんだったかもしれないよ。自分ができることなら、妹にもお姉さんにも、あるいは未来の自分の娘にもできるような社会にしたいと考える男の子が増えることが、世界を変えることにつながるのですよね!

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

古川佳代子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「水を縫う」 寺地はるな著 集英社

日々のくらしのなかには、たくさんの「なのに」が存在しています。いわく日本人なのに(…)、外国人なのに(…)、高校生なのに(…)、男の子なのに(…)、女の子なのに(…)、親なのに(…)…。

男の子なのに刺繍が好きな高校男子の清澄(きよすみ)。女の子なのにかわいいものが苦手な水(み)青(お)。母親なのに子どもよりも仕事を優先するさつ子。父親なのに子どもっぽく頼りない全(ぜん)…。 お互いを思いやっているのに、うまく伝えられないもどかしさ。家族だからこその、決めつけや見くびり。

「なのに」に傷づけられながらも、自分の生き方を変えることはよしとしない家族の姿が、結婚を決めた水青をキーパーソンに描かれています。

章ごとに語り手(視点)を変えて語られる物語は、いつしか家族にしか織ることのできない複雑なタペストリーとなり、読み手に新しい家族の在り方を見せてくれます。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone