川村房子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

川村房子

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「足みじかおじさん」 やなせたかし 新日本出版社

「足ながおじさん」じゃなくて「足みじかおじさん」て何?、と作者をみると、アンパンマンでおなじみのやなせたかしさん。

足みじかおじさんは無名。いつも逆行の中にいて年齢も正体も不明。黒いボーラハットを目深にかぶり、黒いアタッシュケースを片手に影のように現れて、困った人の悩みを聞いて、ごく初歩的な超能力で解決する。そしていつのまにかいなくなっている。

うすいうすい本で35編のショート物語。とても単純で短いメルヘンの世界。

私の専属でいてほしいなあ。自分も助けてもらいながらみんなに貸してやるのに。

川村房子

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「主夫のトモロー」 朱川湊人 NHK出版

キャリアを積んで一流インテリデザイナーを目指す妻をささえ、作家を志しながらも、家事と育児をこなすトモロー。社会の風は、まだまだ主夫に対して厳しい。

妻の美知子もキャリアは捨てがたいが、かわいい娘知里のことを思うと後ろ髪をひかれるが、理解ある夫に助けられ社会に戻っていく。

トモローは知里と一緒に、ママ友やパパ友いろいろな出会いの中で壁にぶちあたりながら奮闘し、「家族のかたち」をつくりあげていく。

文中にある「いくら夫婦だろうが、親だろうが話し合わなければ、分かりあうことなんかできっこないのだ。何もいわなくても分かってくれる…なんて都合のいい幻想で、そんなに察しがいい人ばかりなら、さぞや世界は平和だろう」。

ほんとにその通り。

いやー、私も昔は落ち着いて言葉にすることができず、怒って、泣いて、すねたなあ。いっぱい反省してます。

ユーモアがあって、愛があってやさしい家族小説です。

川村房子

 

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「思わず考えちゃう」 ヨシタケシンイチ 新潮社

今日は6月4日。高知県はコロナの影響も落ち着いて、いつもの生活に戻りつつあるけれど、次男家族の住む宝塚では、分散登校がやっとはじまったところで、集団登校もなし。1年生になったばかりの孫は学校まで送っていかなくてはならない。分散登校も週2日で3時間授業。仕事が休めない息子夫婦の育児の大半をカバーしてくれていた、嫁さんの父親が庭の剪定をしていて腰を痛めダウン。母親は介護に…。

1週間の滞在予定がのびて、嫁さんの本を物色。

絵本作家でイラストレーター。この本は、中年男性の言い訳とヘリクツと負け惜しみの数々だといってます。イラストいりでとても読みやすい。あるあると思ったり、そう考えればいいんだと思ったり、気軽に読みました。

「幸せとはするべきことがはっきりすること」「もう明日やるよ。すごくやるよ」と3回となえて寝る。何より気に入ったのが「世の中の悪口をいいながら、そこそこ幸せにくらしましたとさ」。

土佐町三面記事などもおり混ぜて…。

いいよねえーあこがれます。

川村房子

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「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」 ブレイディみかこ 新潮社

これはイギリスの、荒れているといわれている地域に住んでいる家族。

小学校は市のランキング1位の小学校を卒業し、中学校入学に元底辺中学に入学した優等生の僕。銀行員から前からやりたかったとダンプの運転手になった父と前向きでちょっぴり破天荒な母の3人家族。

元底辺中学校は毎日が事件の連続。人種差別、ジェンダーに悩む少年、何より貧富の差があって、食事でさえ満足にとれない、超底辺の友人のやりきれなさを見つめる僕。パンクな母ちゃんと考え悩んだりしながら、前をむいて毎日を暮らす。

EU脱退か否かで荒れる政治。国から忘れられてしまったような底辺での日常を果敢に乗り越えていく。子育て中のお父さん、お母さんには、是非是非読んでもらいたい一冊です。

老人はすべてを信じる。中年はすべてを疑う。若者はすべてを知っている。子どもはすべてにぶち当たる。

川村房子

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「愛の領分」 藤田宜永 文藝春秋

この本を読んで数日後に、高知新聞のメモリアル欄に藤田氏の訃報が掲載されていた。

冒険・恋愛小説の名手で直木賞作家。はじめての作家でしたが、直木賞受賞作品につられて読み始めた小説でした。

待望の恋愛小説と書かれていた。不倫でもないのに秘密のにおいがする。愛を信じられない男と女。それでも出会ってしまった彼らの運命。交差する心と身体、複雑に絡み合う男女4人。すべてをかなぐり捨てた中年男女がゆきつく果ては…。

新聞に、常に完璧さを求める母親から愛情を感じられずに育ったという。そのためか「女の人へのこだわり」が人一倍強かった。作風はひろいが共通するのは主人公が皆どこか寂しげであることだと書かれていた。本当にその通りで、恋愛小説を読んだあとの幸せ感ではなく、寂しさやせつなさを感じた。

川村房子

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「それぞれの終楽章」 安部牧郎 講談社

本棚にあった一冊で、昭和62年発行だから、30年以上前になります。作者紹介をみても、何も書いておらずスマホで調べてみた。85歳で死去。

推理小説、官能小説、野球小説等、多岐にわたって書いていて直木賞候補には何度もあがっていたらしい。「直木賞受賞」にひかれて読みました。でもなんで読んでなかったろう?

主人公は矢部宏、小説家、50歳。親友だった森山が自殺した。通夜に出るため故郷に帰った。友人の借金の保証人になっていたのだ。1億円以上の負債をかかえていたのだ。その上愛人と子どもまでいるという。通夜の席で同級生たちに会い、中学、高校の頃が苦い思い出とともによみがえってくる。

森山とは音楽も一緒によく聞いた。シンフォニーの弟三楽章で幕を閉じてしまった。矢部は終楽章を聞くことができる。もうそれははじまっていると。

私も楽しい思い出とともに苦い思い出もいっぱいある。終楽章がとっくにはじまっている身としては、今を大事に生きていきたいと思う。

 

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「死に支度」 瀬戸内寂聴 講談社

そろそろ断シャリしようか?自分の思いを書き留めておこうかと思うことはあっても、現実的でないような、その時はその時かと呑気さとルーズさが顔を出す。

寂聴さんはたくさんの人の心を法話で救っている。時々テレビに出ていることがあって、その話しに聞き入ってしまう。

「呆けることだけは避けたい。だから、今のままで死にたい。今夜死んでも悔やむことは一切ないという」

誰でも呆けたくないと思う。

死にたいと言葉では言っても、クスリを呑み、悪いところは手術をしあがき続けるものだとおもう。

足腰が弱り、髪の毛が少なくなり、歯がぬけてしわがより、気力はあっても体力がついていかなくなり、自分の中のすべてが老い支度はいやでもはじまっている。

寂聴さんにだって、つらいせつない苦しい思いをしたことたくさんあって、眠れぬ夜も何度もあったろう。

何事も達観したお歳になって、自分の思うままに生きてきたからこその言葉かもしれない。

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私の一冊

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「コーヒーが冷めないうちに」 川口俊和 サンマーク出版

最近なくなった人に会えたり、戻ってきたり、という小説に縁がある。

この小説は、コーヒーが冷めないうちに、過去に戻ったり未来に行ったりするという、不思議な噂のある喫茶店「フニクリフニクラ」でおこる物語です。

過去に行けてもその未来が変えられるわけじゃない等、非常にめんどくさいルールがある。

4人の女性たちが紡ぐ家族と愛と後悔との物語。それぞれが体験した後も、お互いがつながっていく優しくて心あたたまる物語。

20万部を突破したベストセラーで、帯に読者からのお便りがのせられている。

「心の病気を患って仕事をやめた今、涙を流しながら読みました。過去に戻って相手の心を確認してこなくても、もう私は大丈夫。そう思えました。また外に出て行く勇気をもらいました」と。

なんだか心が悲しい人に読んでもらいたい作品です。

 

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「幸福な生活」 百田尚樹 祥伝社

久しぶりにこの作者の本を読みました。

発売されると待ちかねるように読んでいましたが、メディアに顔を出すようになってちょっと敬遠。でもやっぱりおもしろい。

表面上は幸福な生活に見えても、それにはほど遠いドキッとするおちでちょっと怖い。

18の短編からできています。

「おとなしい妻」では、早苗はものすごく気の弱い女で、美人ではないけれど童顔で笑うと愛嬌のある、そんな妻を愛していた。頬をはらした男がどなりこんできたが、妻はしらないとうつむいて首を横にふるが、モニターをみると歴然。精神科での診察を受けた後、夫は医師と話していると、待合室から男の怒鳴り声。

看護師がなだめても「やかましい、ぶっ殺すぞ」

「やっかいな患者さんですね」夫が言うと、医師は少し困った顔で言った。

「貴方の奥さんですよ」

ないようであるような怖い話の連続です。

 

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川村房子

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「なりたい」 畠中恵 新潮社

ファンタジー時代小説。愉快で愛嬌たっぷりな妖(妖怪)が繰り広げるファンタジー。しゃばけシリーズ第十四弾。

江戸有数の廻船問屋の跡取り息子。限りなく病弱な離れで暮らす一太郎。

亡くなった祖母が大妖であった故、一太郎も少しはその血をひいており、店で働くもの、離れに陣取っているもの、世話をするものと妖たちに囲まれて過ごしている。

そんな一太郎の元に、どこから聞いたのか助けをもとめてやってくる。

消えた死体を捜せ、猫またの長をきめろ、おまけに来世でなりたいものを決めろと無理難題。一度出かければひと月も寝込んでしまう病弱さでありながら、屏風のぞきや貧乏神、鳴家、おしろに小鬼等に助けを借りて解決に導いていく。

妖たちはお菓子や料理、お酒をお供えしてもらえば文句なし。

「妖になりたい」「人になりたい」「猫になりたい」「親になりたい」「りっぱになりたい」。

願いをめぐる5つの物語。

川村房子

 

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