ずっと昔、黒丸での話よ。
ある晩のこと、きれいな娘さんが「この川には渕はいくつもあるけんど、どの渕も先客がおるので泊まる所がない。どうか泊めてくだされ」言うてやって来たと。
それじゃあと言うことで泊めてやることにしたが、寝る時に桶を貸してくれえ言うたと。
大きな桶もなかったので、楮(かじ)を蒸す桶でもかまん、誰もあけてくれな言うてそれをすっぽりかぶって寝たと。
夜中に、体が蛇にもどったもんよ。
桶がバリバリ言うて割れたそうな。朝になってみると、娘さんの姿は見えざったそうな。
そのことがあった後、すぐ隣の家から火が出たそうな。
昔のことじゃきに草葺きよね。近くの家はどんどん焼けてしもうたけんど、その家だけ焼け残ったと。
娘さんを泊めた時に、私の寝姿さえ見んかったら、どんな火事にも焼けんから言うて寝たそうなが、その御利益だったもんよ。
草葺ではなくなったけんど、その家は今もあらあね。
蛇の娘がどこから来て、どこへ行ったかは聞いちょりません。
町史(「土佐町の民話」より)