夜、電話がかかってきた。
電話は土佐町黒丸に住む仁井田さんからで「金曜日にパンを焼くけど今回はどうする?」
パンの注文の確認だった。
前回と同じくるみレーズンパンと、楽しみにしていたアップルパイがあると言うからそれもお願いした。
その時、私は外のベランダで電話をしていた。
電話口の向こうで仁井田さんが言った。
「犬の声がするね。犬がいるの?」
うちで飼っている犬のぽん太が、何か獣の気配を感じたのだろう、暗闇に向かってわんわん!と吠えていて、その声が電話の向こうまで聞こえたのだ。
「何年くらい前から飼ってるの?」と聞かれ、「4年前かな・・。土佐町に住んでいた氏次さんというお友達の犬に赤ちゃんが生まれた時、分けてもらったんです」と言うと、「え!じゃあ、ぽん太はうちの犬と親戚や!」とびっくりした声が聞こえてきた。
「氏次くんの犬、ゆらは、うちの犬のこどもなんよ。ゆらのお母さんの『じり』は今、僕の足元にいてあっためてくれてるよ。お父さんの『ムッチー』は、去年死んじゃった。じりとムッチーには2匹こどもがいて、そのうちの1匹がゆら、もう1匹がそら」。
ゆらは、ぽん太のお母さん。
つまり、仁井田さんのところの「じり」は、ぽん太のおばあちゃんなのだった。
「そらは今、どこにいるんですか?」と聞くと、「そらも、今、僕の足元に寝そべっているよ」と教えてくれた。
「そら」はぽん太のおばさん。
ぽん太のおばあちゃんとおばさんは、同じ土佐町にいたのだ!
仁井田さんと私はある意味、4年前から「親戚関係」だったのだ。
ぽん太の鳴き声が、今まで知ることのなかった家族を見つけた。