「すてきなあなたに」 大橋 鎮子 暮しの手帖社
2017年11月
山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。
人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。
土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?
みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!
(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)
佐藤恵
薪
うちでは薪を使って、煮炊きやお風呂を沸かしている。
土佐町で薪ストーブを使っている家は珍しくないし、薪風呂が現役な家庭も少なくない。
日が落ちる時間になると、集落の所々から煙が上がりはじめ、木が燃える匂いが鼻をかすめる。
周りを山で囲まれた環境で、木自体は比較的手に入りやすい。
「小屋を壊すけ、廃材持っていかん?」「木を切ったき、持って行きや」。
背板と呼ばれる製材の残りも大量にいただくことがある。連絡が来ると軽トラにチェーンソーなどを積んで出掛ける。
処分にお金が掛かったり、邪魔になるものをもらってきてエネルギーとして使う。
お互いに嬉しい関係を築く。
「焚きもの」と呼ばれる薪、使う用途によって大きさや長さを変えている。
五右衛門風呂を沸かしたり、ストーブで使う材は、柱などの廃材を70〜80cmくらいに切ったものを使うことも多い。
釘など金具はついたまま燃やして、灰なったら、磁石にくっつけてまとめて処分する。
毎日三度の食事を作るための薪は、車の燃料と同じくらい暮らしにとって大切で、
ストックを十分に用意しておかなくてはいけない。
風呂は二三日入らなくてもどうってことないが、食事はそうはいかない。
釜戸の火口に入る長さに切り、斧で割って、乾燥させておく。
炒めものや揚げものをするときは短時間で高温になる杉や檜が便利だし、
野菜をコトコトと煮る場合などは太めの枝だと具合が良い。
湿っていたりなど薪の状態が悪いと、調理に時間が掛かってしまう。そのイライラは食事の味や品数にも影響しかねない。
薪管理者(僕のことです)が、料理人(奥さんのことですね)の機嫌を損ねては円満な薪生活に支障が出てしまう。
木はタダで手に入るが、運んだり薪にする手間を考えると、無駄にはできない。
いつも、どうやったら効率的合理的にこの資源を利用できるか考えてる。
薪棚が薪でいっぱいになると心豊かになる。
焚きものが大量に手に入ったり、すぐ使える薪をいただいたりすると、
途端に気持ちが大きくなって「いつもより熱めにお風呂焚いちゃおう」なんて思う。
早明浦と言う地名について(早明浦)
日本歴史の中でも、源氏と平家の勢力争いは、最も有名で深刻なものでありました。
屋島の戦い、壇の浦の決戦などは、皆様のよくご承知のことであります。
それ以来、全国至る所で、両勢力の闘争がくり返されたものでありました。
ある平家の残党(生き残った仲間)が、源氏の兵どもに追われて、吉野川をさかのぼりつつ、この地まで落ちのびて来た時の話であります。
源氏の兵どもは、それを追って、鳥越峠(現在のさめうら荘の近く)を越えて逃げて行く平家の残党を、今夜中に、ここで一気に全滅させようと、勇みに勇んで、この峠に立ちましたが、幸か不幸か夜は白々と明け始めていました。
この時、峠に立って、西の方を眺めると、あたりは一面の雲海で海を思わせる風景であったのでしょう。そこで、源氏の大将は峠に立ちはだかり、
「えれ、残念、早や夜が明けたか。」
と地だんだふんで残念がったということであります。
平家の残党は、夜明けを幸い、落ちのびることができました。
こういう伝説が、いつか早や明けの浦となり、早明浦となったということであります。
澤田南海男(館報)ー「土佐町の民話」より
りんご
土佐町に来て驚いたことがある。それは桃園とりんご園があること。
桃といえば岡山。りんごといえば長野や青森。
単純にそう思っていた私には衝撃的であり、嬉しいことの一つだった。
調べてみると、佐川町にもりんご園があるみたい。それもびっくり。
りんごといえば、初めてのひとり旅に私は長野県を選んだ。
京都の短大を卒業した後、同じ短大の専攻科に進級した1年生の秋に
大阪梅田のバスターミナルから長野行きのバスに乗って、上高地へ行った。
なんで長野県だったのか理由は忘れたけどその旅は学校を辞めようか悩んでいた、いわば傷心(?)の旅だった。
上高地へ向かう私鉄の車窓から目に飛び込んで来たのは、真っ赤なりんごがたくさんなった木。
その電車はりんご畑の中を通っている電車だった。
(はっきりは覚えてないので本当かどうかは今になっては不明・・・)
「りんごが木になっちゅう!!」
当たり前だけど、お店でしかりんごの姿を見たことがなく、
木に果物がなるといえば高知では柑橘類、あとは道々にある柿やびわくらいしか見たことなかったので、
それはそれは嬉しかった。りんごの良心市があるのも驚いた。
土佐町に来た時、りんご園があると知って、私は真っ先にその学生時代の悩んだ時期のこと、
りんごが木になっているのをみて嬉しかったことを思い出した。
りんごのように甘酸っぱい思い出。
りんごの季節になると、土佐町のりんご園のりんごが近くの道の駅や産直市に並ぶ。
その光景も高知では珍しく、薄赤いりんごが並ぶのはほんの一瞬の土佐町の味。
爽やかな秋風と同じように、土佐町のりんごは爽やかな酸味と甘味。
生ではシャキシャキとした食感が気持ちいいけれど、少しの水と一緒に似て煮りんごも甘みが増して美味しい。
うちの3歳の子は離乳食時期、生のりんごは食べなかったけど煮りんごはよく食べた。
じっくり火を通して、焼きりんごもいいな。
同じ時期に採れるサツマイモやジャガイモと合わせてポテトサラダにも。
ホクホクとシャキシャキを一緒に楽しめるおかずの一品にもなります。
ジャガイモとりんごのサラダ
材料:
りんご・ジャガイモ・(あれば)パセリ・塩・こしょう
オリーブオイルまたはマヨネーズ
作り方:
茹でたジャガイモを塊が残るくらい軽くつぶし、いちょう切りにしたりんご、みじん切りにしたパセリと合わせる。
塩こしょうと少しのオリーブオイルで味を整える。マヨネーズの場合はマヨネーズの味が出過ぎないように少なめに。
そうするとりんごとジャガイモの美味しさが際立ちます!
胃腸の虚弱を強くしてくれるジャガイモとりんごの組み合わせ。
夏に冷たいものを取りすぎたりして胃腸を弱くしている人にはオススメです。
特にこれからは乾燥も気になる季節。
今が旬の梨もそうですが、りんごも体の渇きを潤してくれます。
ぜひ普段のポテトサラダに、旬のりんごを入れてみてください。
りんごは体を温めも冷やしもしない「平」という性質。
冷蔵庫で冷やしたりせず常温で食べるのがポイントです。
胃腸の不調を整えたり、消化吸収が良いので便秘を改善。
下痢や吐き下しに良いとされています。
子供の時、熱が出たらりんごを食べさせてもらったりしませんでした?
「一日一個のりんごで医者いらず」よく言ったものでした。
特に皮には胃腸の働きを良くしたり、コレステロール値を下げるペクチンが豊富に含まれているので、
皮も食べると効果的!
イライラした時リラックスしたい時に食べたり、甘酸っぱい香りを楽しむだけでも心を落ち着かせてくれます。
りんご園のりんごを見た時、学生の頃を思い出して心がほっこりした気分になったのも、
りんごの持つ薬効だったのかもしれないですね。