「鴨川食堂」 柏井壽 小学館
京都東本願寺の近くに、「鴨川食堂」をいとなんでいる父と娘、そして一匹のねこがいます。
店の体をなしていない二階建てのしもた屋で、かつて看板とショーウィンドーがあったようだとはいえ、空き家のような寂寞感はなく、人の温もりを持つ現役の店らしき空気に包まれていて何とも不思議です。
食に関する探偵社も兼ねていて、娘の聞き取りで父親が調べて、その味を再現する。
「料理春秋」という本に書かれている一行広告。連絡先も何も書いていません。「わかりやすい広告にしたら」といえば「それほど来てもろてもこまります」「ご縁があればたどりついてくれます」という。
はじめてのお客はおまかせのみという料理の内容も、食探しを引き受ける父と娘のやりとりも、そこに尋ねてくるお客さんも味があってあたたかくてほっこりさせてくれます。
第6話まであるのですが、土佐の鯖寿司の話も出てきます。
この作者、小説は初刊行だそうです。夜、眠るまでのひとときにはぴったりというか、土佐弁でいうぼっちりでした。