「香君 上・下」 上橋菜穂子 文藝春秋
1989年に『精霊の木』でデビューをされて以来、ずっと追いかけている上橋菜穂子さん。歳を重ねるに従って、作品はどんどんと重厚になってきているように思います。
香りで万象を知ることのできる「香君」に守られている国・ウマール帝国は、奇跡の稲〈オアレ稲〉によって繁栄してきました。けれども近年、虫害により国の存亡にかかわる食糧危機に見舞われます。
香君と同じく植物の香りから様々なことを読み取れる少女アイシャは、誰にもそれを打ち明けることができず、深い孤独を感じていました。自分の力を疎ましく思うとともに、香りから得られる様々な生き物の豊かな営みは、アイシャに喜びももたらせてくれます。相反するアイシャの思いをていねいに綴りつつ、並行して描きだされる国の憂いや統治者の苦悩、思惑、駆け引きは、架空の世界のこととは思えない力で読み手を翻弄します。
未来に希望を持つことが難しく思える時もありますが、それでも自分の想像力を駆使して、どうすれば少しでも良い未来につながるのか考え続け、できる限りのことをして生きていく先にこそ「希望」を作り出せるのかもしれない、と思わされた物語でした。