古川 佳代子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

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「建築探偵  東奔西走」 藤森照信文, 増田彰久写真 朝日文庫

日本国内の美しい、あるいはなんじゃこれ?と言いたくなるユニークな建物を紹介してくれる本書。物言わぬ建物に代わって雄弁に語る藤森氏の歯切れのよい文章と、建物がいちばん美しく見えるよう細心の注意を払って丁寧に撮られた増田氏の写真。そのどれもが素晴らしく、すぐにでも出かけて行きたくなります。こんな建築物が身近にあるって楽しいだろうなと思っていたら、記憶の底からよみがえってくる建物がありました。

通称“灘のお化け屋敷”。宇津野トンネルを海側に抜けてすぐ左手。うっそうと樹の生い茂った坂道を登ったところに立つくすんだピンクの朽ちかけた二階建て。スペードやハートの形をしている、なにやらあやしい雰囲気の洋館に住んでいたのは一体どこの誰だったのでしょう?

今頃になってとっても気になります…。

 

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「シェフィールドを発つ日」 バーリー・ドハーティー作,中川千尋訳 福武書店

行ったこともないし、どんな街なのかも知らないにも関わらず「シェフィールド」と聞くと何やら懐かしい気持ちになります。それはこの本と出会ってからのことです。

主人公のジェスは一年間フランス留学のため、明日、生まれ故郷のシェフィールドを旅立ちます。彼女の門出を祝うパーティも終わり家族だけになったとき、祖父母や父が、それぞれのとっておきの物語をジェスに語り始めます。旅立ちを前に、自分の存在の不確か さに戸惑う者を力づけてくれるのは、きっとこういう身近な人々の物語なのでしょう。

それはまた、読者である私も励ましてくれ、拙いながらも自分の物語をつむぐ勇気をくれるものでもありました。

さまざまな選択肢から一つを選ばなくてはならない決断のとき、そっと背中を押してくれるのは、シェフィールドのまちで出会った人であり彼らの語ってくれた物語なのでした。

 

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「Earthおじさん46億才」 藤原ひろのぶ文, ほう絵 フォレスト出版

おもしろい本を見つけるコツってありますか?と聞かれるときがたまにあります。あるなら私も知りたい、と思いますが強いて言えば、経験と勘で本からの信号キャッチすること、それと本好きの友人のおすすめ本はとりあえずチェックすることかなぁ。なかでも出会える確率が高いのは、友だちからの口コミ! この本も友だちから教えてもらった最近のヒット作です。

地球が誕生して46億年。これを1年に置き換えると人類が誕生したのは23分前になるらしいです。そのたった23分の間に取り返しのつかなくなる一歩手前まで地球を汚しまった私たち。ちょっと人間にいいたいことがあるんやと、神様にお願いしてヒト型(?)にしてもらったアースおじさんのつぶやきの一つ一つが静かに心に響きます。

責めることはせず、こんなに汚してしまったら困るのは人類のほうなのに大丈夫なのかいと心配するアースおじさんのほんわか慈愛に満ちた顔。これ以上、おじさんのお腹の調子を悪くしたり、体臭を酷くしないために何ができるのか? ほんの少しのことでもアースおじさんに喜んでもらえるよう、暮らし方を考えなくてはと思います。

 

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「ぶきっちょアンナのおくりもの」 ジーン・リトル作 田崎眞喜子訳 福武書店

年明けに、懐かしい本を読み返してみました。やはり良いなあ、好きだなあと、幸せな読書初めでした。それがこの「ぶきっちょアンナのおくりもの」。

アンナは五人兄姉の末っ子です。 アンナ以外の家族はみんな美しい容姿と手先の器用さに恵まれています。それにひきかえアンナだけが、ずんぐりとしていて不器用でした。そのうえアンナは、小学校二年生になってもまだ字が読めませんでした。兄姉たちはアンナをばかにして相手にしてくれません。母親もアンナの鈍い動作にいつもイライラしていました。そんなアンナの唯一の理解者は父親でした。

時は第二次世界大戦間近、ナチスが台頭してきたドイツに住み続けることに不安を抱いた父親はカナダに移住する決断をします。カナダに移住してすぐに受けた健康診断で、アンナはひどい弱視だったことがわかります。 眼鏡をかけた瞬間からアンナの世界は一変します。けれども内気なアンナは大好きな父親にさえ、自分の世界がどんなに変わったかをうまく伝えることができません。家族にとって、アンナはやはり“ぶきっちょアンナ”のままでした。

その一方で、視覚障がい者のクラスに通い始めたアンナは、自分にもいろいろなことができることを知ります。あるがままのアンナを受け入れてくれるクラスメイトたち。アンナは少しずつ自分に自信を持ち始めます。

自分の家族という小さな社会での評価がすべてだと子どもは思いがちです。けれども違う社会、違う視点を持つことで世界は広がり、なんて生きやすくなることでしょう。いえ、これは子どもに限ったことではないですね。大人だって同じこと。自分の属する小さな社会がすべてだと思い、その評価に翻弄されてしまいがちです。壁にぶつかったらアンナのことを思い出すことにいたしましょう。

 

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「21世紀の新しい職業図鑑~未来の職業ガイド~」武井一巳著 秀和システム

何かの拍子に、小学校の国語の時間に習った物語の一節やタイトルが思い出される時があります。「私はひどく落胆した」とか「めもあある美術館」とか。

この本を読み終えた時浮かんだのは「ランプ、ランプ、なつかしいランプ」という言葉でした。そう、新美南吉の「おじいさんのランプ」の終わりにでてくる言葉です。まだほとんどの家には明かりがなく、あっても行燈くらいのもの、というときに登場したランプ。文明開化の象徴のようなランプでしたが、電気の登場とともに時代遅れとなってしまう…。

このガイドにでてくる職業は、どれも私が子どものころにはなかった45の職業です。プロゲーマー、ドローン操縦士、ユーチューバー、地下アイドル…。これらは今後ますます発展するだろうAIに対抗できる職業なのだそう。 私が愛してやまない司書という職も、いつの日かAIにとって代わられるのでしょうか? もしも図書館がランプの様に時代遅れになったとき、わたしは巳之助のように「自分の古い商売がお役に立たなくなったら、すっぱりそいつを棄てて、古い商売にかじりついたり、昔のほうがよかったといって世の中の進んだことを恨んだり」しないでいられるでしょうか。

いやいや、図書館よ、永遠なれ!!

 

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「ぼくにだけ見えるジェシカ 」 アンドリュー・ノリス作, 橋本恵訳  徳間書店

コロナ感染防止対策に明け暮れた2020年。様々な事柄にコロナ禍の影響が感じられます。

なかでも子どもの自殺率が倍加したとのデータには、ただただ心が痛むばかりです。 大なり小なり、人は生きていく中で一度は「ここで命をたったら楽になれる…」と思うことがあるかもしれません。そんなとき、踏みとどまらせてくれるのは家族や友人の存在、あるいはお気に入りの本の中のひと言が、「あと一日だけ生きてみる」支えになってくれるかもしれません。

フランシスはファッションに興味がある男の子です。ところがそのことが校内みんなに知られて以来、フランシスは学校で孤立してしまいます。誰からも距離をおかれたフランシスに寄り添ってくれたのが、幽霊となったジェシカでした。見えないはずのジェシカの姿をフランシスだけは見ることができたのです。ファッションに興味があるフランシスを当たり前に受けいれ、その才能を評価してくれるジェシカのおかげでフランシスは少しずつ自信をとりもどしていきます。

そんなとき、また一人、ジェシカを見ることができる仲間ができます。ジェシカを見られる条件は?そしてジェシカが幽霊になったそのわけは?

毎日を精いっぱい生き延びている人たちにそっと手渡したい物語です。

 

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「これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン」大田啓子著 大月書店

雇用や大学進学、給与面など性差別による直接の不利益や影響を受けるのが女性であることから、性差別やジェンダー格差について語られるとき、その対象はもっぱら女性や女の子です。

では、男の子はのびのびと育っているかといえば、そうも言えないようです。 男の子もやはり「男らしさ」を求められ、周囲の大人やメディアの情報を通じて「男の子とはこうあるべき」と刷り込まれ、その影響により”男になって”いくのです。そして、そのような価値観を植え付けられた男性は、性差別的な考え方を身につけてしまうのでした。

とすれば、これから成人する男の子は、どのようなことに気をつけて育てればよいのか、という視点から編まれたのが本書です。性差別構造の強い社会に生まれた男性は、「男性である」だけで強い立場にあります。

これからの男の子や男性にはその強い「特権」を武器に、性差別や性暴力に積極的に対抗してほしいという著者の思いがひしひしと伝わってきました。

 

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「ほんとうのリーダーのみつけかた」 梨木果歩 岩波書店

戦後75年。日本は戦争のない平和な国だといわれるけれど、実はそう思わされているだけではないのかしら、と時々不安になる時があります。そんなとき目に入ってきたのが本書のタイトルでした。

この不安な気持ちを平らげ、私を導いてくれるリーダーの見つけ方を教えてくれるのか、なんとありがたい!と読み始めたのですが、それは大きな誤解でした。そもそも、自分で考えることを放棄して「だれか」にすがろうとすることこそ「危うい」のだと、ガツンと叱り飛ばしてくれたのが本書です。

社会が急激に変化し前例のない時代に、それでも何とかして生き延びなくてはいけません。そしてそれは、あとあと悔み、眠れない夜となるような手段ではない生きのび方でありたいものです。

その道を一緒に歩いてくれるリーダーを、そしてもしも悔むような選択をしてしまったとしても一緒に耐えてくれるリーダーを、自分の中に育てていくことが「ほんとうのリーダーをみつけること」なのだと語りかけてくるのでした。

 

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「貸出禁止の本をすくえ!」 アラン・グラッツ作 ないとうふみこ訳 ほるぷ出版

E.L.カニグズバーグの『クローディアの秘密』を読まれたことはありますか?

「他人とは違う」自分になりたくて、弟を相棒にしてメトロポリタン美術館に家出する女の子が主人公の読み応えのある作品です。以前、NHKのみんなの歌で流れていた「メトロポリタン美術館」の歌詞はこの作品からインスピレーションを得たとのことです。 この世界の人々に愛され、読み継がれてきた物語が「小学校の図書館にふさわしくない」作品だと貸出禁止になってしまいます。

主人公のエイミー・アンは13回読んでもまだ読み返したいと思うくらい『クローディアの秘密』が大好きな女の子。貸出禁止処置に断固反対で、心の中で猛然と反対意見を述べるのですが、実際に声にすることは難しく、せっかく参加した公聴会では言葉を飲み込んでしまいます。けれども最初は11冊だった貸出禁止本が、その後どんどん増えていってしまう事態に我慢できず、突飛な手段で、貸出禁止の本をすくうことを思いつきます…。

エイミー・アンとその仲間を応援しつつ、司書の1人として、いろいろと思いながら読んだことでした。

 

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「本好きの下剋上」 香月美夜著 TOブックス

まだ高知こどもの図書館に勤めていた時に、半端ない本好きの方から紹介いただいたのがこの作品です。

早速オーテピアに借りに行ったのですが残念、貸出中。それではと予約をしたところ予約数が10件を超えていて唖然としましたが、期待は否が応でも高まるというものです。

読書が何よりも好きで、読書のためなら食事を抜くのも睡眠時間を削るのも全く苦にならない女子大生が命を落とし、異世界の貧しい兵士一家の虚弱な5歳の女の子として転生するところから物語は始まります。 識字率が低く、書物はほとんど手に入らない状況に少女は「無ければつくればいいじゃない」と本を作ろうとしますが、肝心の紙すらない…。

本に対する執着心と図書館に対する絶対愛!万人向けの作品とは言い難いのですが、現在、新刊を追っかけている私のお気に入りのシリーズです。

 

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